三方を客席が囲む張り出しの舞台前方にピットがあり、その中に大道具が一部のぞいて見える。
開演時間になるとその大道具が奈落からせり上がってきて、道具係が舞台装置を組み立て始め、道具類を配置していく。舞台装置が出来上がると音楽を流し、奥では今しも舞台がはねたところのようである。
今や人気も凋落したバリモアが起死回生の舞台復帰を狙って一日だけ劇場を借り、かつて人気と名声を一挙に獲得したシェイクスピアの『リチャード三世』の一人稽古をしながら、過去の思い出を語るバリモアを演じる一人芝居である。
バリモアについては、ハムレットの'To be or not to be'の場面の台詞を録音で聴いたことがあって興味があった。その録音では、同じ場面をデレク・ジャコビとサイモン・ラッセル・ビールとを比較して聴けるようになっていて、バリモアの台詞は、二人に較べてゆっくりとしており、おまけに濁声(だみごえ)で粘液質的な声であった。
バリモアを演じる仲代達矢が、劇中で『リチャード三世』と『ハムレット』の台詞を語り、その両方とも演じた仲代自身とも重なっているところが興味深かった。
バリモアが濁声であるということで劇中でも仲代の発声は濁声にしていて、『ハムレット』の台本を読むとき、例の場面では録音で聴いた感じを再現しているかのようであったので、仲代もバリモアの声を聴いたことがあるのだろうかと思ったほどだった。
バリモアがロンドンで『ハムレット』を公演した時、一般観客の人気は絶大であったのに招待客のバーナード・ショーが皮肉な辛口の評価であったことを、ショーの手紙を読む場面で披露するエピソードは、バリモアその人よりショーの人柄に面白さを感じた。
この舞台を観ることでバリモアに関しての必要な知識はみな得られたという気がする。
舞台にはバリモア演じる仲代達矢ひとりしか登場しないが、舞台の奥で松崎謙二が『リチャード三世』のプロンプターを務める役をしている。
一人芝居は演じる方も大変であろうが、観ている側も疲れた。
「役者はアスリート」という仲代達矢の言葉を体感させる舞台でもあった。
しかしながら、劇中での仲代達矢の観客へのサービスぶりはバリモアを演じての演技でもあるが、彼自身の媚びのように見え、そのピエロじみた印象が凋落したバリモアの惨めさと二重写しのようで淋しさを感じさせた。
上演時間は休憩20分を挟んで1時間45分。
作/ウィリアム・ルース、翻訳・演出/丹野郁弓、装置/島次郎、音楽/池辺晋一郎
11月10日(月)14時開演、 世田谷・シアタートラム
チケット:8000円、座席:XL列(下手側面1列目)6番、プログラム:800円
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