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  シェイクスピア・シアター6月公演 『ヴェニスの商人』        No. 2014-025

 奥山美代子のシャイロック

 2年前のちょうど同じころに女性だけによる『ヴェニスの商人』が上演され、今回は男優も入る通常の姿であるが、シャイロックだけは前回同様に文学座の奥山美代子が演じた。  
 今回も前回と同じくキャスティングに公演のチラシと一部変更があり、ラーンスロット・ゴボーが白戸早紀から、当初出演予定のなかった木村美保とのWキャストになっていて、白戸は13日の1公演のみで、残る4公演は木村がすべて演じるように変わっていた。
 初日のソワレで観たが、台詞がまだ十分に入ってなかったのか、ポーシャを演じた石川ひとみが何度も台詞を噛んでいたのが少し気になったが華やかな存在感があった。 
 実のところ、このところの演出が暗いイメージで、見ていてうっとうしい気分になることが多く、自分にとってかつてのような面白さが感じられなかったが、今回の上演には明るさがまだあった。 
 ロレンゾーと駆け落ちする場面でジェシカが変装する服装が、阪神タイガースの野球帽と野球服を模して、と言っても本物と同じユニフォームではなく、ストライプの線が入ったズボンに虎の絵が描かれたりしていてそこに遊びが込められている。
 せっかくならシャイロックの衣裳ももう少し考えて欲しかった。 シャイロックの衣裳は、黒いソフト帽に黒のフロックコート、それに首には白のスカーフを巻き付けていて、およそユダヤ人らしきところは微塵もなく、他のヴェニスの若者たちと基本的には何ら変わったところがなかった。 
 ユダヤ人のシャイロックがヴェニスの者たちと同じ服装で彼らの中に同化しようとする姿勢を表象していると考えることもできるかもしれないが、演出上ではそのように見えてこない。 
 今回の舞台で救いだったのは、前回同様にラーンスロット・ゴボーを演じた木村美保の明るさと、野球服姿に変装したジェシカを演じた釣遥子のおチャッピーな姿になごまされたことであった。 
 最後のところで印象に残ったのは、全員が退場して一人残ったアントーニオは、しばらく所在無げに舞台中央でじっとして立っているが、やがて何を思ってか両手をゆっくり広げては深呼吸を繰り返す。 
 そこへ道化のラーンスロット・ゴボー役の木村美保が現われて怪訝そうにそれを見ているが、彼の傍に並んで立ち、自分も同じことをやり出す―そして舞台はゆっくり暗転する。 
 この最後の場面は、演出者によってこれまでにもいろんな工夫がなされてきているだけに、どのように終わらせるかも一興で、今回のこの演出にはシンプルでありながらも何かとぼけた面白さを感じた。 
 アントーニオの藤井映伍とバッサーニオを演じた文学座の駒井健介は終わってみれば印象が薄く、グラシアーノの高山健太、老ゴボーとサレーニオを演じた三田和慶の二人が元気よく、他にはネリッサに高橋ちくさ、そしてモロッコ大公、アラゴン大公、ヴェニスの公爵を宇野幸二郎が演じた。 
 翻訳者の小田島雄志先生が招待客として見えられていたが、いつもなら小田島先生を迎えて挨拶している演出者の出口典雄がまったく顔を見せていなかったのが気になった。 
 上演時間は、途中休憩10分間を挟んで2時間40分。

 

訳/小田島雄志、演出/出口典雄
6月11日(水)18時30分開演、俳優座劇場、チケット:4500円、4列13番

 

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