― 「深いテーマも教訓もない、欲望ドタバタ喜劇」 ―
シェイクスピアと同時代人ベン・ジョンソンの喜劇を初めて観る。
座席はD列11番となっていたが、舞台が張り出し構造になっていたので、最前列の中央の席で願ってもない位置であった。
開演前の舞台中央には等身大より少し大きな人体の骨格をしたオブジェが二体あって、演技の邪魔になりそうな気がしたが、それは開演すると黒子役のような口上役(平野潤也)が一体ずつ舞台下の両脇に移動させる。
雨の音がして、舞台は暗転。
舞台中央には人形のように動かない人物が二体(フェイスとサトル)。
舞台周辺にも同じようにぜんまいが切れたからくり人形のような人体がいくつも立っている。
赤いコートを着た女(ドル役の朴ロ美=パクロミ)が表れ、動かないでいる人体に触れると動き出す。
女が錬金術の説明をし、フェイスとサトルの顔を動かす。
次に口上役が口上を述べ、彼が舞台から消えた後、フェイスとサトルが激しいやりとりを始め、赤いコートの女が衣裳を変えてその会話に割って入る。こうしてこのドタバタ喜劇の物語が展開していく。
事前にこの原作を読んでみたがちっとも面白くなく、結局2幕まで読んで諦めてしまった。
5月15日の朝日新聞夕刊にこの劇の紹介記事が出ていて、この劇が「欲望ドタバタ喜劇」で「深いテーマも教訓もない」大騒動で「ただ笑って帰って下さればOK」 とあったが、まさにその通りであった。
舞台に乗るとメッチャ面白いのに、自分一人で読んでも面白くないことが多いが、この作品は典型的にそのような作品だと思った。
もっとも演じる役者がつまらなければ面白くもおかしくもないだろうが、主役のエセ隊長フェイスを演じる橋爪功、いかさま錬金術師のサトルの金田明夫、お色気たっぷりの女郎のドルの朴ロ美の3人の演技が抜群に面白い。
特に橋爪功の演技は、かろみがあって、ふわりと気分を載せられ、引き込まれてく。彼の演技を楽しめるだけでもこの劇を見る価値がある。それに金田明夫とのコンビの会話には漫才を見ているような感じであった。 朴ロ美の肉体美を使っての大胆な演技も、笑いの中でお色気を楽しませてくれる。
エセ隊長フェイスと偽錬金術師のサトルに騙される大勢の脇役がいてはじめてこのドタバタ劇を楽しめるわけで、その意味でもこの脇役たちの存在も重要な位置を占めている。
本編の間に入るインタールードの隣人たちが集まって交わす会話の寸劇もまた面白い。
フェイス、サトル、ドルたちが必死で稼ぎ出した金も、疫病で邸を空けていた主人ラヴウィットが突然戻ってきて、稼ぎを全部取り上げられてしまい、すべて水泡に帰してしまう。
終わりは、また暗い舞台に雨の音。登場人物たちはぜんまいが切れかかったような動きをしている。それを再び赤いコートの女が一体ずつ触れていくと、完全に動きが止まってしまう。 すべては、からくり人形たちが繰り広げた一瞬の夢と化す円環構造で終わる。
出演は、タバコ屋のおかみドラガーに谷川清美、強欲マモンに上杉陽一、信心家ホールサムに伊藤昌一などベテラン俳優、若手では代書屋ダバーに石黒光、狂心家アナニアスに戎哲史、おぼこのブライアントに深見由真など。
上演時間は休憩なしで、1時間50分。たっぷりと笑いを楽しんだ。
ベン・ジョンソンの原作を改めて挑戦して読んでみようと思った。
演劇集団円では、このようなシェイクスピアの同時代人の作品をときどき上演してくれるが、今後もずっと続けて他の作品も上演していって欲しいと願っている。
作/ベン・ジョンソン、翻訳/安西徹雄、上演台本・演出/鈴木勝秀
5月28日(水)19時開演、東京芸術劇場・シアターウェスト
チケット:5500円、座席:D列11番、プログラム:350円、上演台本:1500円
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