タイプスがますますgreat entertainmentを目指して進んでいる印象の舞台であった。これまでのダンスと音楽の生演奏に加えて、今回2つの新たな試みが加わった。
一つは、ホログラムの導入、今一つは、エアリエル・シルクである。
舞台前面には紗幕が下りていて、演技はその内側で終始演じられ、その紗幕はホログラムのスクリーンの役目を果たす。ホログラムとは、「レーザーを使って記録した立体画像」のことで、レーザーを使って物体から反射した光の波形(干渉縞)を感光材に記録し立体画像として再生する技術のことだという。
舞台では、マクベスがダンカンを殺す前に見るまぼろしの短剣の場面と、マクベスの願いに魔女たちが応えて呼び出す幻影がこのホログラムによって映し出される。
一方のエアリエル・シルク(Aerial Silk)も、ホログラムと同様に見るのも聞くのも初めてであったが、これは元々フランスが発祥の地とされ、サーカスの一部でも行われ、最近ではダンスとしての要素としても演じられる一種の空中サーカスで、天上から布を吊るしてその布を使ってのアクロバティックなパフォーマンスである。
このエアリエル・シルクはAnz・あんずが舞台の中で3度ほど演じ、その都度衣裳の色が変わっていて、衣裳の色は場面を表象しているかのように、最初は黒で、次に赤、最後の場面では白い衣裳で印象的であった。このパフォーマンスには驚かされて、演技の進行よりもついこちらの方に目が向いてしまうほどであった。
タイプスの舞台がますますエンターテインメントとしての要素を強く感じさせたのは、これらの新しい試み以外に、いつものダンスにしてもその比重がますます強まっている感じで、今回、そのダンサーの数だけでも専任で13名という豪華さ、場面転換の要所々々に登場し、そのパフォーマンスを繰り広げ、それを見ているだけでも楽しい気分がした。このダンスが入ることで場面の進行が流れるように過ぎていく。
舞台上のことでさらに付け加えるならば、背景の場面に映像を活用して、最初の魔女の登場には荒野を、ダンカンがマクベスの城インヴァネスを訪ねる場面ではその壮大な城を、またバーナムの森の場面では森を映し出し、視覚的効果を高めている。
場面展開が流れるように過ぎていくためか、門番の登場する場面では面白い台詞もほとんど省かれており物足りなさがあったが、逆に思わぬ面白さを出していたのが、医師の登場場面。ダンカンを演じた桑島義明が二役でこの医師を演じ、新本一真のマクベスに小突かれた時に大袈裟にも見事な一回転をして前方で立ち上がる。
そのとき新本一真が「お前、今、回転しただろう?!おまえ、(年は)いくつだ?」と突っ込みを入れると、桑島が「19歳」とあり得ない年を答えるので思わず笑いたくなってしまい、遊びの精神が感じられる場面であった。
マクベスの新本一真、マクベス夫人の田中香子など好演したが、舞台全体通して観た時には、ダンスなどのパフォーマンスの印象が強くて個々の演技の印象は結果的には薄くしか残らなかったが、その場を楽しむことができたということが大事だと思う。
この『マクベス』はタイプス15周年を記念して2月に上演した『リア王』に続く第2弾で、その意欲的な活動に今後も期待していきたい。この日は満席状態で、終演後は出演者との面会を待つ観客でロビーは混雑でごった返していたが、盛況で何よりである。
[注] ホログラムとエアリエル・シルクについては「ウィキペディア」を参考にした。
演出・台本構成/パク・バンイル
4月23日(水)19時開演、座・高円寺2、全席自由
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