IT時代ならではの作品といえる。アプリ開発会社の女子社員の一人、柊が結婚することになり、結婚式での余興が会社ぐるみで計画され、その中でアプリゲームさながらに現実と世界が交錯して『夏の夜の夢』が展開する。この会社では社内恋愛は禁止されているが、実際には入り組んだ形で社内恋愛問題が起こっている。
柊は会社の外注プログラマーと婚約しているのだが、結婚式当日の余興の場でこの会社の社長と愛人関係にあったことが分かり、オーベロンとヒポリタの関係を連想させる。
社内恋愛のもつれは、アプリの世界の中と現実の場が交差しながら、仮想世界のアプリの中では恋愛関係でもつれている社員たちがそれぞれ、ライサンダー、ハーミア、デミートリアス、ヘレナとなり、その他の社員は時に妖精の役割をする。
アプリの中での劇中劇ともいうべき『夏の夜の夢』の展開は、この会社の隣が工事中で携帯の電波が途切れがちなところに加え、突然の停電で真っ暗となってシーシウスとヒポリタの冒頭の場面が登場するところから始まる。ヒポリタ役の柊は分かったが、シーシウスの方は照明の関係と、劇の始まりの方だったことで人物関係がとらえられなかったのではっきりとは分からなかったが、柊の婚約者であるプログラマーだったのではないかと思う。
アプリ開発会社のオフイスが『夏の夜の夢』のアテネの宮廷に相当し、アプリの世界はアテネの森ということになるだろう。この森は「異界」というより、いわゆる現代の「ヴァーチャル・リアリティ(仮想世界)」である。
結婚式の余興は『ピラニアとシスターの恋』という題名の劇で、ライオンに代わって馬が登場する。
アプリ開発会社の社長がオーベロンで、社長の妻はブランドデザイナー会社の女社長でティターニアに相当する役で、ふたりは社長の浮気で関係が冷え切っているが、柊の結婚式の当日に仲直りして修復する。
柊の婚約者である外注のプログラマーは、パックの役目をする。
デミートリアスの役はアプリ開発会社社長の弟で広告代理店をやっているが、社内の女性に手を出すことで会社を傾かせてしまった。そんなこともあって兄の会社では社内恋愛禁止となったという設定である。
『夏の夜の夢』をうまく嵌めこんでよく出来た作品であると感心するが、総勢18人のキャストということもあって、観ている最中は人物関係を呑み込むのに一苦労し、そのためもあってか、観終わった後、頭の中がジンジンして疲れを感じた。しかしながら、翻案劇としては若々しい発想で大変面白く、堀川炎の振り付けによるコンテンポラリー風の踊りもよかったと思う。
全員知らない役者ばかりだが、特に印象に残ったのはアプリ開発会社社長を演じた岩田裕耳のよく通る台詞力。
上演時間は、休憩なしで2時間10分。
脚本・演出・振付/堀川炎
3月28日(金)14時開演、吉祥寺シアター、チケット:3150円(友の会)、全席自由
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