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  吉祥寺シアター・シェイクスピアシリーズ、ティーファクトリー公演
               月面を舞台にした 『荒野のリア』     
No. 2014-008

 感動的な舞台というより、知的着想の面白さを味わう舞台であった。
奥を高くして観客席に向かって砂丘を思わせる斜面の開帳場的な舞台に、中央のホリゾントは帆船の帆のように大きな白布が縦長に張られている。
 嵐を喚起する音響とともに、いきなり嵐の場面から始まり、最初に登場して来るのはケイアスに変装したケントと紳士。磁場で画像がちらついているような状況の中での遭遇で、ふたりは宇宙服のヘルメットを頭にかぶっており、会話の声もまるで月面にいるかのようである。
 彼らがリアを探しに二手に分かれて去ったところで、舞台中央奥からリアと道化が登場、リアは斜面中央の穴から顔を出し、そこから這い上がって登場する。
 舞台の構成は、リアと道化を中心とした荒野の嵐の場面と、グロスターとエドガーが狂気にさまようリアに出会うドーヴァーの場面の二つが柱となって、グロスターが両目を抉られる場面は映像が駆使され、無声映画として中央の白布をスクリーンにして顔の表情だけがアップで映し出され、台詞はすべて字幕で表現される。このスクリーンには、どういうわけか、小津安次郎の『東京物語』の場面や、ジョン・ウェインのいくつもの映画の場面のワンカット・シーンがいくつも映し出されたりするが、意味の脈絡に関係なくなつかしみを感じさせるものがある。
 リアの三人の娘では、ゴネリルとリーガンは舞台上には登場せず、道化と二役のコーデリアだけが登場する。
 最後の場面では、リアは死んだコーデリアから離れて足を踏み鳴らしながら(彼が足を下ろすと大音響が響く)舞台前面に歩を進め、両足を拡げて両手を水平に真横に伸ばしたまま、仁王立ちで息絶える。
 エドガーの「この悲しい時代の重荷は、我々が背負って行かねばならない」という最後の台詞の後、天上から勢いよく砂が降ってきて、リアを除いて、舞台上にいるオルバニー、ケントなど4人の頭上に激しく降りかかる。
 舞台は暗転しこれで終わりかのように見えるが、下着姿のリアが明るく映し出され、足下には死んだコーデリアの代わりにウサギの耳の帽子をかぶせられたぬいぐるみが横たわっている。
 道化とコーデリアはウサギの耳を付けた帽子をかぶっていたが、最後の場面でこの意味が解ける。リアの背後には、大きな、大きな、白い丸い月のようなものが見える。が、すぐにそれは月ではなく地球だと気付く。
リアは、ウサギの耳をしたぬいぐるみを抱えて舞台後方に弱い足取りで歩いていく。その後方では、両目を失ったグロスターが何やら呟きながら杖をついて下手からゆっくりと進んでくる。そして、今でははっきりと地球を示す球体が急速に後方に遠ざかっていく。リアとグロスターは月面にいるのだった。そして、この物語はこの二人の老人の物語でもあった。
 ウサギの耳のついた道化の帽子は、月に住むウサギをイメージする表象であった。月は、狂気の表象でもある。これで、この舞台の始まりでケントと紳士が登場した時、宇宙服のヘルメットを頭にかぶっていた理由が見えてくるのだった。
 リアに麿赤皃、グロスターに手塚とおる、道化とコーデリアを有薗芳記、ケントに笠木誠、エドガーに玉置玲央、オルバニーに志村史人、エドマンドに宮内克也など。リアを演じた麿の演技と、エドガーを演じた玉置の精悍でアクロバット的な身の軽さの演技が印象的であった。
 吉祥寺シアター、2013年度のシェイクスピアシリーズの一環。
 上演時間は、1時間50分。

 

訳/松岡和子、構成・演出/川村毅
3月15日(土)14時開演、吉祥寺シアター、チケット:4000円(友の会)、座席:D列6番

 

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