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2014年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」

●2014年のシェイクスピア劇回顧

 2014年はシェイクスピア生誕450年ということで、例年にもましてシェイクスピア関連の劇や催しが多かったように思う。
 演劇関係では、文学座がシェイクスピア祭としてシェイクスピア・リーディング・シリーズを春夏秋冬の4期にわたって、ソネット集の朗読を含めて19作品のリーディング公演と、本公演では『尺には尺を』、『お気に召すまま』の上演につづき、2015年1月には『リア王』の公演を予定している。また、文学座附属研修所でも『十二夜』と『終わりよければすべてよし』の2作のアトリエ公演が催された。
 また、池袋の"あうるすぽっと"では「あうるすぽっとシェイクスピアフェスティバル2014」と称して、多くのシェイクスピア劇や関連の催し、展示がなされた。
 明星大学では、創立50周年を記念して、シェイクスピア関連の催しや演劇が上演され、東京芸術大学では芸大プロジェクトとして「シェイクスピア~人とその時代」として、"シェイクスピアの劇中音楽"や、"目で見るシェイクスピア、音で読むシェイクスピア"などの講演がなされた。
 シェイクスピア朗読(劇)の催しとしては、3つのタイプに分けることができる。
 一つは文学座のシェイクスピア・リーディング・シリーズのアトリエ公演で、これは朗読というよりほとんど普通の劇に近いものであった。簡単な舞台装置もあり、大半のリーディングでは台本なしで演じていた。小田島雄志訳、福田恆存訳、坪内逍遥爵など、作品によって異なる翻訳者を楽しむことができた。
 二つ目として、阿佐ヶ谷の喫茶ヴィオロンで毎月第2金曜日に催されている"ヴィオロン文芸朗読会"では、荒井良雄台本による坪内逍遥訳シェイクスピアの朗読が続けられており、2015年2月に『末よければ総てよし』をもって、坪内逍遥訳のシェイクスピア劇全作品の朗読を終える。
 三番目は、東京シェイクスピア・カンパニーが江戸馨訳で『ウィンザーの陽気な女房たち』をノーカットで朗読公演したのが注目される。
 このように2014年は特別な年として、例年にもまして数多くのシェイクスピア劇、関連劇を観ることができ、英国での観劇と文学座のリーディングを含めると60本以上観たことになる。

●私が選んだ2014年のベスト5(観劇順)

1. 東京シェイクスピア・カンパニー公演、『ヴェニスの商人』と『ポーシャの庭』同時公演(1月)
 『ポーシャの庭』は長年再演を待ち望んでいた作品で、再演までの時間が長かっただけに新作と同じくらい新鮮に感じた。加えて『ヴェニスの商人』の公演で、2作品同時に観る楽しみも加わって2014年で一番印象に残る公演であった。
   
2. 劇団東演公演、ベリャコーヴィッチ演出の『ハムレット』(3月)
 前回、東日本大震災の翌々日に観劇しているが、今年観た『ハムレット』6作品の中では一押し。
   
3. ティーファクトリー公演、『荒野のリア』(3月)
 今年観た『リア王』はこの作品を含めて4作。
 道化とコーデリアはうさぎの耳のついた帽子をかぶり、リアとグロスターは、最後、月面を歩いている。月は狂気の表象として鮮やかな印象。リアを演じた麿赤児の演技とエドガーを演じた玉置玲奈のアクロバット的な身の軽さの演技が印象的であった。
   
4. "日本の30代"自主公演、『十二夜』(4月)
 観劇日記には、これまでに観てきた『十二夜』の中では屈指だと絶賛できるほど、楽しく、愉快で、面白かったと記している。
   
5. 明治大学シェイクスピアプロジェクト公演、『組曲 道化と王冠』(11月)
 第一部『ウィンザーの陽気な女房たち』、第二部『ヘンリー五世』の二分構成で、この2作品を連結させた構成力がすばらしいと感嘆した。学生たちの公演ということを抜きにして、ベスト5の一つとしてあげたい。
   

●特別賞 ―感銘を受けた公演―

1. シェイクスピア・カンパニー公演、喜劇『新リア王』(3月)
 寿司屋とリア王の結び付けの発想がユニークで、タイトルの通りハッピーエンドで、心の和む上演で、東京オリンピックの挿話など、懐かしいエピソードも込められていて、感動と感激で元気をもらった。
   
2. 劇団俳小公演、『どさ回りのハムレット―兄殺しの報い―』(9月)
 明星大学創立50周年記念特別事業の一環として上演された。元は18世紀のドイツの巡回劇団が所有していた台本ということで、それを劇団俳小が大衆演劇に仕立て、1998年に豊島区大塚の"じぇるホール"で上演したのが最初だという。このような良質な劇を提供してくれた明星大学に感謝。
   
3. プラチナネクスト第10回公演、『真夏の夜の夢』(11月)
 文学座が2009年に開設した6か月の俳優養成講座プラチナクラスの卒業生有志の集団による公演。演じている出演者が演じることを自ら楽しみ、その楽しみが伝わってきて、心にふれる温もりを感じ、気持ちを豊かにしてくれた。
   
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