高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  長塚圭史演出の 『マクベス』      No. 2013-042
 

全方位から見られる六角形のむき出しの舞台で、役者たちは観客席通路から登場する。
本来の観客席と舞台であった場所が階段状の観客席となって向き合っているので、観客は対面の観客をも観ることになり、バーナムの森の場面ではそれが効果的に生かされる。
開演前の舞台口上がすでに舞台の始まりとなって、口上を述べる二人の俳優(市川しんぺーと福田転球)に対して観客席にいる魔女三人が盛んに野次を飛ばす。
開演前から魔女たちが観客席に座っているということで、この魔女たちが仕掛け人であるだけでなく、「観る人」であることを表象していることを感じさせる。
年齢、体型、舞台経験などが異なる三人の魔女たちのキャラの組み合わせが実に面白いと思った。
特にあの三田和代が魔女を演じるという事前の情報で興味が倍増していた。
他の二人は、劇団乾電池の江口のりこと、個性的な俳優(としか言いようがない)平田敦子。
演出の面で特に注目したのは、マクベスの暗殺者たちがマクダフ夫人の赤ん坊を床に投げつけて殺す場面。
夫人から赤ん坊を取り上げた暗殺者が床に叩きつけるようにして投げると、赤ん坊の首が取れてころりと前方に転がり落ちる。その瞬間、舞台は凍りついたように息苦しいまでの沈黙と静止状態が続く。
その沈黙と静止があまりに長いことから、「子供の脳味噌を叩き出してみせます」というマクベス夫人の台詞を思い出し、これはマクベス夫人の言葉の体現ではないかと思った。
もう一つは、マクベス夫人を演じる常盤貴子がバーナムの森が動き出したことを告げる使者の役となって登場したことだった。キャストは有り余るほど出演者がいるので、彼女を使者に演じさせる必要性はないにもかかわらず、である。この使者は一瞥して常盤貴子と分かるので、彼女をこの場面のこの使者に仕立てたという意図的なものを感じざるを得なかった。
本来ならこの舞台の演出の目玉の一つである「バーナムの森」の演出の仕掛けに一番に触れるべきかもしれないが、これは開演前の口上で察しがついたので、驚きという点では先に述べた二つの点に一歩譲らざるを得ない。
観客席の椅子の横に緑色のビニール傘が差し込んであり、それを合図に従って取り出して拡げるということで、バーナムの森の木立を象徴させることはすぐに想像がついた。
しかしながら実際にその場面になると、満席の観客席がその傘を一斉に開くとさすがに壮観であった。
全方位の舞台をはじめとして、このような演出法は観客参加型の舞台として成功であったと言ってもいいだろう。
最後は、マクベスの首をあしらった特大の張りぼてを観客席全体に一周させたのは愛嬌のあるお遊びであった。
長塚圭史にとって初演出のシェイクスピアは、登場人物の衣裳は現代服、手にする剣はこうもり傘、特にバンクォーを演じる風間杜夫の服装は、茶系のスーツ姿でそこいらにいる中年の紳士と変わらず、若い感性を感じた。
観客を引き込む演出などと相まって、若い世代の人たちには親しみのある舞台ではなかったかと思う。
マクベスの堤真一やバンクォーの風間杜夫はカラッとした感じで、マクベス夫人の常盤貴子は台詞に深みが感じられず、全体的に内面性があまり感じられない人物造形で少々物足りなかったが、ダンカンの中嶋しゅう(シーワードとの二役)、マクダフの白井晃など、キャスティングは多彩であった。なかでもシェイクスピア劇ベテランの横田栄司(ロス役)は台詞を堪能させてくれたが、吉田鋼太郎と瓜二つの声をしていると感じながら聴いた。
上演時間は休憩15分を入れて3時間弱、少し冗長に感じた。

 

(翻訳/松岡和子、演出/長塚圭史、12月25日(水)昼、シアターコクーンにて観劇、
チケット:9500円、座席:1階 XC列15番、プログラム:1500円)

>> 目次へ