高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  『ロミオとジュリエット』の喜劇 『ハレクイネイド』      No. 2013-037
 

『ロミオとジュリエット』のバックステージもの、しかも原作の悲劇が喜劇となっていて、プラス耳慣れない「ハレクイネイド」という言葉に引かれた。で、早速そのハレクイネイドの意味を探ってみた。

辞書には’harlequinade’=ハーレクイネードとあって、Harlequin(ハーレクイン)の出るパントマイムの一種、道化、茶番とある。

さらにそのHarlequinを引いてみると、「アルレッキーノ、アルルカン、ハーレクイン(コメディア・デラルテに登場する道化役の下男。菱形の多色のまだらのはいった衣裳と黒い仮面を着けている。英国でのパントマイムではパンタルーンの下男でコロンビーナの恋人)」とある。

作者のテレンス・ラティガン(1911-1977)がこの作品を書いて上演したのは、1948年9月8日、ロンドンのフェニックス劇場である、というそれだけの事前情報を頭に入れてこの舞台を観た。

「ハレクイネイド」という言葉と、この『ロミオとジュリエット』のバックステージの喜劇との関連性については、自分にとっては結局のところつかめなかったが、そんなこととは関係なく、この笑劇(ファルス)の良質な笑いを堪能することができ大いに満足した。

この笑劇は、単にシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のバックステージものというだけでなく、上演された1948年という時代的背景を頭に入れるとき、現在の視点から見ると当時の演劇の革新的(?)変化の様相を示す台詞を耳にすることで、自分にとっては二重三重に興味がわいた。

舞台は、イングランド中部の都市ブラックリーの劇場での上演本番を前にして、劇団の座長アーサー・ゴスポート(安原重人)のロミオと、座長の妻エドナ・セルビー(森澤早苗)のジュリエットがバルコニーシーンをリハーサルしている場面から始まる。

二人の年齢は四十代後半から五十代前半といった年頃で、ゴスポートは演じながらも自分の年齢では無理ではないかと迷っている。そのために少しでも若い所作を見せようと試みて、台の上をぴょんととび乗ってみたりする。

そんな所作が可愛くもありおかしくもあって、つい笑ってしまう。

そのリハーサルの最中に、珍客万来で問題が続出することでドタバタ劇が展開していく。

座長のゴスポートを「父ちゃん」と呼ぶ娘ミュリエル(小山友香里)が、夫と赤ん坊(ゴスポートにとっては孫ということになる)を連れて登場してくることで一騒動が起こり、さらにはその娘の母が現存していることで、ゴスポートにとっては今の妻エドナとの重婚罪という重大事件に発展する。

ゴスポートはそんな重大事よりも、孫のいる歳でロミオなど演じられない思いの方が大きな問題としてつのってくる。この劇のファルスとしての面白さは、そのように事の重大性について、本来の重大事よりも脇の問題に心を捕らわれているズレの面白さにあるのだが、それを十二分に演じているところが笑いを誘っていて、この劇の上質さを示していると言える。

座長の本筋的な重婚罪事件と、舞台監督ジャック(松澤太陽)とその婚約者ジョイス(立花かおる)との結婚問題の脇筋の絡み合いもこの劇を複層的にして、苦い笑いの場が増幅する。

『ロミオとジュリエット』のリハーサルの最中に、座長が早くも次の出し物『冬物語』のパーディタ役のオーディションをしているところなどは劇団の内幕を観るような興味を感じた。

さて、当時の革新的演劇的変化の様相と初めに書いたが、それは座長夫人エドナと、乳母を演じる座長の叔母であるモード・ゴスポート(島美弥子)との会話の中に出てくる。

叔母モードはデイムの称号を持ったかつての花形女優で、座長の父親が演じたロミオを相手にジュリエットを演じたことがあり、エドナも一目を置く存在ではあるが、その彼女の助言に対して戦後の演劇界は大きく変わって、叔母の演技論は今では通用しないことを言うところがあり、そこに自分の関心が向けられた。

また、ゴスポートの劇団が、シェイクスピアの作品をイングランドの地方公演から始めことの社会的意義について語るが、そのことも戦後の英国における演劇界や、シェイクスピア劇上演の変化を考えさせられる台詞で興味があった。この演劇史的なことについては自分に十分な知識もないので、気にはなったがそれ以上の深い意味まで考えが及ばなかった。

テアトルエコーならではの俳優人の層の厚さで脇役の面白さに注目すべきだろう。

何ともしがたい座長の父親の代からの老優ジョージ・チャドリーを演じる沖恂一郎、秘書のミス・フィッシュを演じる丸山裕子、劇場の支配人の沢りつお、警察官の川田栄など、時に主役以上に笑わせ、楽しませてくれた。

上演時間は1時間40分、濃密な舞台であった。

 

(作/テレンス・ラティガン、翻訳/広川治、演出/保科耕一、装置/大田創、
12月1日(日)昼、恵比寿テアトルエコー劇場にて観劇。座席:G列14番)

 

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