高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  YSG第10回公演 『フォルスタッフのさんxザン日記』      No. 2013-026
 

今回はYSG(ヨコハマ・シェイクスピア・グループ)第10回を記念するのにふさわしい公演であったと思う。

新人の参加、OBの参加、下は小学生から上は60歳を超えた人、まさに老若男女網羅のキャストで、最近にない賑わいで、今回の喜劇を一層に盛り上げた。

このグループの母体である関東学院大学出身者以外からの出演も、今回特筆すべき事柄であった。

『フォルスタッフさんxザン日記』のタイトルからも容易に推察できるように、フォルスタッフを三人で演じ、『ウィンザーの陽気な女房たち』のフォルスタッフがさんざんに痛めつけられる話をメイン・プロットにしたものである。

「さんざん」を「さんxザン」とわざわざ区切っているところから、「3x3=9」で、「ク」にもじりがあるように感じていたが、種明かしで明らかにされた「苦労のク」にまでは思いが及ばなかった。

この上演の成功の一つは、まったく異なるタイプの三人の俳優がフォルスタッフを演じて三者三様のフォルスタッフを楽しむことができるという点にあるだろう。

それぞれのフォルスタッフが、それぞれ痛い目に合わせられるという面白さ。

最初のフォルスタッフ(瀬沼達也)は、洗濯かごに入れられてテムズ川に放り込まれて痛い目にあう。

二番目のフォルスタッフ(佐々木隆行)は、ブレントフォードのおばさんに変装して、フォード氏にこん棒で殴られて痛い目にあう。

三番目のフォルスタッフ(増留俊樹)は、ウィンザーの森で妖精たち(に化けた子供たち)に痛い目にあわされる。

タイトルからすれば、この(三人の)フォルスタッフがタイトル・ロールとしての主役であるのは間違いないのであるが、今回この話を面白くしていたのは何といっても原題のタイトル・ロールでもあるフォード夫人(飯田綾乃)とペイジ夫人(小嶋しのぶ)、それにクィックリー夫人(三冨友里恵)の三人であった。

登場人物とストーリーの省略から医者のキーズの家政婦という設定を外した関係から、かわいらしいメイド服姿で登場するクィックリーが、フォルスタッフへのいたずらを仕掛けるのが面白くてたまらないという役を好演。

フォルスタッフのメイン・プロットに加えてアン・ペイジ(森山希望)の結婚問題の脇筋をちょっぴり加えているが、婚約者候補のスレンダーに瀬沼達也、キーズ医師に佐々木隆行、フェントンに小池智也が演じた。

ペイジ夫妻の下の子どもウィリアム(飯田菜生)は、キーズ医師からラテン語ではなく、英語で1から10までと、アルファベットのAからZまでを暗唱させられ、フランス語で「ありがとう」と言わせられるが、それだけは頑強に英語で「ありがとう」としか言わないキュートな役を演じた。

ペイジ氏はOBの鴨下実がいぶし銀の演技、フォード氏はYSG期待のホープ細貝康太が熱演。

ロビンの(ドラムの演奏をするという)柳かおる、バードルフの(現役時代は商社マンであったという)堀井寛も、地味な出番ながらもこの喜劇を引き立てるのに大いに一役買っていた。

 

アフタートークの中でフォルスタッフを演じた増留俊樹が語っていたことが一番印象的であっただけでなく、最も大事なことであると思った。彼の言葉を集約すると、「ここにいて、そして出会える人がいる、だからここ(舞台)にいる」ということであるが、俳優は観客がいてはじめて成り立ちうることであり、その出会いを彼が大切にしているということであり、感銘深い言葉である。

三人三様のフォルスタッフの味があって甲乙をつける必要はないが、自然体でフォルスタッフを演じた増留俊樹が味わい深い感銘を残したのが彼の言葉を証明しているといえよう。

飯田綾乃が、夫の嫉妬に悩まされている立場でフォード夫人を演じたという言葉も、彼女の演技を納得させるものであった。

今回のメンバーの賑やかさを、次回にも大いに期待したい楽しい舞台であった。

 

(演出/佐藤正弥、6月29日(土)昼、横浜山の手西洋館エリスマン邸(ホール)にて観劇)

 

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