高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  渡辺美佐子の『リア』      No. 2013-018
 

嵐の場面から始まる。

舞台の袖の奥両側から、

「だれだ、この悪い空模様のなかを?」

「その空模様と同じく、乱れた心をもつものだ」

という台詞が木霊のようにして聞こえてくる。

舞台下手から、リアがコーデリアの骸(むくろ)を引きずりながら登場してくる。

リアが叫ぶのは、「風よ、吹け」ではなく、「泣け、泣け、泣かぬか!」である。

嵐の場面では、渡辺美佐子のリアと、田中壮太郎が演じる道化の二人が登場。

この嵐の後に、リアの国譲りの場面。道化は引っ込み、植本潤がゴネリル、リーガン、コーデリアを演じる。

再び嵐の場面に戻ると、リアと道化と気違いトムのエドガー。

嵐の場面になると必ずはじめに、

「だれだ、この悪い空模様のなかを?」

「その空模様と同じく、乱れた心をもつものだ」

の台詞が繰り返される。

三人だけで演じるが、役どころは、渡辺美佐子のリアと田中壮太郎の道化だけは役を変じることなく、植本潤だけが役柄を変えるが、グロスターなどの周辺人物は登場しない。

それぞれに達者な役者であるが、三人が1+1+1=3ではなく1X1X1=1のような印象を抱いた。

それはよい意味で解釈すれば、それぞれが一人芝居でも成り立つものであったと言える。

観終わった後、何となく中身の濃さを感じられない欲求不満というか、物足りなさからくるフラストレーションのようなものを感じた。

それは一言で言えば、渡辺美佐子が演じるというそのことへの過剰な期待感に反比例した結果でもあった。

渡辺美佐子のリアは観終わった後の印象としては、愛嬌のある微笑ましさを感じた。

田中壮太郎の道化は、これまでには見たことのないタイプの道化を演じていて興味深かった。

植本潤は、やはりとても器用な役者である(よい意味で)とここでも思った。

ホリゾントに映し出される、目まぐるしく動き回る光の球やコーデリアの姿など、映像のイメージが詩的であった。

座・高円寺レパートリー・シリーズの取り組みとしての第7弾で、この三人の組み合わせ自体に十分な期待を抱かせてくれたという点では素晴らしい企画であった。

上演時間は、休憩なく1時間半。

 

(翻訳/小田島雄志、構成・演出/佐藤信、構成協力/生田萬、美術/島次郎、5月17日(金)夜、座・高円寺にて観劇。チケット:3500円、座席:D列12番)

 

>> 目次へ