高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
     彩の国シェイクスピア・シリーズ第27弾 『ヘンリー四世』    No. 2013-016
 

『ヘンリー四世』第一部と第二部を、15分の休憩を挟んで4時間20分で一挙上演。

十分見どころあるものであったが、その中で自分として大いに感じるものが三つほどあった。

第一は舞台装置(美術)、第二が吉田鋼太郎演じるフォルスタッフ、三番目が第一部と第二部のキャスティングで一部役柄が変わってくるその変化の面白さであった。

もう一つの特徴としては、『ヘンリー四世』の主役の印象は、どちらかというとヘンリー四世よりも将来のヘンリー五世であるハル王子だと感じさせる演出が多いと思うのだが、今回の演出から見ればこの舞台の主役は吉田鋼太郎演じるフォルスタッフに間違いないが、ヘンリー四世を演じる木場勝己が個性の強い俳優であるせいもあってか、タイトルロールとしての存在感が最後まで濃厚に感じられたのもその特徴のひとつであったと思う。

最初に挙げた舞台装置であるが、その特徴としてまず挙げられるのが、宮廷もしくは貴族の館や戦場の場面では舞台の奥行きを深く活用して深遠さを出している一方、イーストチープの居酒屋など庶民の風景では舞台前面だけの狭くて奥行きがない横長の設定となっていて、両者の違いをくっきりと描き出していた。

そして、場面が変わるごとに素早く舞台装置を転換する見事な手際良さに、その変化を楽しむこともできた。

この舞台の主役を務める吉田鋼太郎のフォルスタッフは、フォルスタッフを演じるのはこれが二度目ということであるが、どちらかと言うと硬派で剛(ごう)のタイプを感じさせる彼が喜劇的人物を演じるところに面白さがあった。

一部と二部で役柄を変えたキャストでの面白さでは、三人ほどあげたい。

その一番は、たかお鷹。第一部ではウスター伯を演じ、第二部では地方判事のシャローを演じ、第二部の中でも一番面白いと思う場面のなかで、彼の持ち味を十二分に出して、緊張感を解放して笑わせてくれた。

次に、第一部でオーエン・グレンダワーを演じ、第二部では高等法院長を演じた辻萬長は、当初グレンダワーが彼だとは分からなかったのであるが、それだけに演ずる人物の違いのコントラストがよかった。

そして、第一部で実直なウォルター・ブラントを演じた間宮啓行が、第二部ではがらりと趣を変えてピストルを演じ、吉田鋼太郎のフォルスタッフとの丁々発止のやりとりは、個人的印象としてはシェイクスピア・シアター時代を思わせる感慨にひたらせるものがあった。

珍しい場面としては、モーティマー夫人がウェールズ語でモーティマーに語りかけ、ウェールズ語で歌う場面で、それらしき言葉で台詞を言い、歌ったがあれは本物のウェールズ語であったのかどうか?!

同じ場面で実際にウェールズ語で語り、ウェールズ語で歌う原語での上演を観たことがあるが、ウェールズ語の美しい響きにうっとりしたことを思い出した。

モーティマー夫人を演じた土井睦月子の衣裳が鮮やかなブルーでそれだけでも強い印象であったが、加えてメイクが日本人離れしていて当初外人キャストかと思ったほどだった。

ハル王子には松坂桃李。脇を固めるクイックリーを演じる立石涼子や、バードルフの瑳川哲朗が好演。

最後の方でヘンリー五世となったハル王子が語る「私は長いあいだこういう男の夢を見ていた」という台詞で感じたのは、夢見ていたのはフォルスタッフのほうで、ハル王子が国王となってすべて自分の思い通りになる世の中になると信じ込んでいたという強い印象を受け、それだけにフォルスタッフの惨めさが際立って感じられた。

そして、それゆえにこの舞台の主役はフォルスタッフなのだと思わせるのであった。

河合祥一郎の構成で、第一部と第二部を単に一つにまとめて要約するのではなく、一応独立した作品としてしかも二つを一つの作品として一挙に上演したことで、まとめて観ることができ、第一部と第二部の違いをも味わうことができた。

 

(訳/松岡和子、構成/河合祥一郎、演出/蜷川幸雄、美術/中越司、衣裳/小峰リリー、
4月16日(火)夜、彩の国さいたま芸術劇場・大ホールにて観劇。
チケット:S席9000円、1階R列8番、プログラム:1500円)

 

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