高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  野村萬斎構成・演出・主演による 『マクベス』      No. 2013-009
 

3年前、同じ世田谷パブリックシアターで、今回と同じキャストで上演された『マクベス』の再演であるが、美術と表出された内容はまったく一新され、ますます凝縮されて密度の濃い、完成度の高い作品となっている。

その完成度の高さは、シェイクスピアを能と狂言という日本の伝統芸能とを和様の舞台美術に融合させることによって深化された結果だと思う。

前回強く打ち出されていた、森羅万象という宇宙の広大な世界に対して、宇宙のゴミ、塵としての卑小な人間の存在のコントラストの基本的概念は今回も崩されていない。

大きく変わったのは舞台美術である。

美術担当は前回同様に松井るみであるが、前回は半球の真っ白な天球儀が舞台装置によって宇宙と森羅万象を表象させるものであったが、今回は円を四角に変化させ、能の世界のような省略化された舞台となっている。

舞台中央奥には、千鳥が舞い飛ぶ白浪の風景が描かれた幕で覆われた矩形の箱があり、そこから人物が出這入りもする。

そして、大きな布が一枚舞台の板として敷かれていて、登場人物の演技はその上で演じられ、その行動、所作を魔女たちが布の枠外から望見する。

矩形の箱は、マクベスが王となった場面では反転され、そこからマクベスとマクベス夫人が王と王妃として登場してくるが、幕の裏面の絵模様は、一面が蜘蛛の巣が描かれ、蜘蛛の巣には昆虫が何匹もかかっていて、象徴的なものを感じさせた。

マクベスがマクダフの館を襲う場面では、マクベスが一人で槍を振り回す立ち回りをした後、床の布がさっと起こされ、その布が立ち上がると表面には沢山の矢が描かれていて、布が起こされて立ち上がっていく瞬間は、まさに矢が飛び交うイメージとなっており、美しく壮観であった。

今回の舞台装置では、舞台の板としての布以外にも、動くバーナムの森としても布が用いられ、最後にマクダフに倒され土に帰るマクベスを覆うのもこの大きな一枚の布で、平面的な布が立体的な動きを見せることで重要な役割を担っているのが大きな特徴であった。

自分の運命を聞き出そうと魔女のところに行くマクベス、すべてを聞き終わった時、自分がいた場所は自分の館の一室で、傍にいるのはマクベス夫人。

マクベスは夫人に「魔女たちを見たか」と尋ねるが、夫人は何にも見なかったと言い残し、マクベスの存在にすら気付かぬ態で、夢遊病者の如く立ち去って行く演出に新鮮さを感じた。

伝統芸能である能・狂言の持つ様式美を強く意識した演出は、今回予定されているソウル、ニューヨークの海外公演にもインパクトのあるものではないかと期待される。

出演は、マクベスに野村萬斎、マクベス夫人に秋山菜津子、三人の魔女には高田恵篤、福士恵二、小林桂太。

上演時間は、休憩なしで1時間40分。

【私の観劇評】 ★★★★★

 

(翻訳/河合祥一郎、構成・演出/野村萬斎、美術/松井るみ、2月26日(火)夜、世田谷パブリックシアターにて観劇、S席O列5番、チケット:6500円、プログラム:1000円)

 

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