高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  劇団BDP公演 『ハムレット・レポート』      No. 2013-007
 

この劇は二重三重に楽しむことが出来る。

劇の構成は、エジンバラ演劇祭に参加上演する『ハムレット』のオーディションを兼ねた10日間のワークショップで、『ハムレット』劇が一通り劇中劇的に進行するという設定になっており、その中で、途中少しミステリアスな事件(?)もあり、観客の関心がそちらの方にも向けられる趣向にもなっている。

劇団BDPは傘下の児童劇団「大きな夢」がその母体になっていて、今回の出演者は高校生以上からなる「BDPアカデミー」のメンバーで、ハムレット役の坪田和也が慶応大学(医学部)の3年生で22歳、一番年長で、そのほかは協力出演者の5名を除いて全員が20歳以下という若いメンバーである。

協力出演者は、劇団昴の金尾哲夫が演劇を教えている准教授で、演出者として、劇中のワークショップの『ハムレット』でクローディアスを演じる。他には劇中劇の王、王妃、ルシアーナス役、それに演出助手とポローニアスを演じる役の者とで合計5名である。協力出演者は、歌やダンスなどその道でのプロフェッショナルな活動をしている。

劇団は9割が女性ということもあって、今回のこの劇でも客演を除けば男性は4名のみで、従って役作りは女性が男役を必然的に務めなければならないのだが、みなオフィーリアを演じることを望んでいるところなど、現実と舞台が交錯した状態になる。

そこでオフィーリア役は場面ごとに違った者が演じることになる。

ハムレット役は、4名の男性がいるにもかかわらず何故かしら事前に決まっている。

劇中では高橋達也という名前であるが、実は彼は前回のオーディションでは落ちており、他にもオフィーリア役で同じように落ちて今回再挑戦というものが何名かいる。

ハムレットを演じる高橋達也は、役の中で次第に役に自己投影していき、葛藤して苦しみ悶える。

そこにはミステリアスな秘密が潜んでいるのだった。

演出者(劇中では近藤力也という名で、リッキーと皆に呼ばせている)はかつて舞台俳優であり、達也は実は彼の息子で、父と母が離婚して姓が異なるのだった。

達也の悩みは、役者を降りた父への反感と、役者であった父の演技を乗り越えることであった。

二人の関係はワークショップの中では知られていないのだが、いつの間にかこのワークショップが達也一人のためにあるのだという噂が広まっていく。

公開での通し稽古が終わりオーディションの結果が発表されると、意外にもそこには達也の名前がない。

達也の相手役としてガートルードを演じた奈津美が納得できないと演出者の力也に食ってかかる。

力也は実は達也に断られたのだと答えるが、それでも納得せず、達也と一緒に演じるのでなければいやだと言う奈津美を、達也は、彼女は役に自分を混同して没入してしまうところがあるのだと父親に説明すると、そんなところはおまえの母親そっくりだと言う。

父親である力也も認めるほど演技も成長した達也であるが、ハムレットを演じきったことで父親への反感も消え、精神的に独り立ちしたのであった。エジンバラ行きも、父親の演出で別の舞台に立つ気もないと言い、今は卒論で「ハムレット・レポート」を書き、その後はイギリスにでも行って演技を学び、戻ってきた時に父の演出の舞台に立つことを考えてみてもいいと言い残して立ち去る。

このあたりのところとなると、演技者としての達也と、実像としての坪田和也が重なってくる。

このようにハムレットを演じる達也の演技と心の成長のプロセスが一つの焦点であるが、その一方で、役柄についての考察、ハムレットはなぜ悩むのか、オフィーリアはここでなぜ嬉しそうな顔をするのかなど場面ごとでの人物の内面について演じる者たちに質問を投げかけ、考えさせ、それぞれに答えを出させる。

その投げかける質問について教えられることが多く参考にもなり、ワークショップを通しての役作りについて知ることが出来るという側面的楽しみ、面白さがあった。

その中で一つ面白いと思ったことをあげると、ハムレットが母親に対して怒りを伴ったような悩みの原因についての考察があるが、今年初めに観た劇団キンダ―スペース公演による『新・新ハムレット2013』で、ガートルードがクローディアスと結婚した理由がハムレットの命を救うためであったということと類似していたことだった。

大きな疑問点では、ハムレットの年齢からすれば父王が亡くなれば後見者なしに彼自身が王となってもおかしくないのに、なぜ叔父が国王となるのか。それは王が暗殺(毒殺)されたのであれば、当然ハムレットにも身の危険が及ぶことが考えられ、その危険を防ぐためにガートルードは、息子の安全の保証と引き換えにクローディアスとの結婚を承諾したという解釈。

そのようにハムレットの悩みをいろいろな方面から考えるという試みは、作品を読む上においても、劇を観る上においても勉強になるものであった。

全体を通しては、この劇団が子供ミュージカル出身を母体とするだけに、劇中での歌やダンスも大いに楽しむことができた。

演出者役にして劇中クローディアスを演じる金尾哲夫の台詞力は、比較するのがおかしいが、やはり群を抜いたうまさで堪能させてくれた。

最後に、達也が演じたハムレットは、彼が忌避したように本物の舞台でこと改めて見たいと思う役ではなかった。

理由はいまさら見たいと思うハムレット像ではなかったということにある。

そのように演じた坪田和也の演技を讃えるべきか否か、それが問題だ。

 

上演時間は、途中15分の休憩を挟んで2時間40分。

 

(脚本/嶽本あゆ美、演出/青砥洋、2月17日(日)昼、新国立劇場・小劇場にて観劇。チケット:3800円。D4列6番)

 

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