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  関東学院大学シェイクスピア英語劇・第62回公演
               『お気に召すまま』            
No. 2013-038

 毎年この時期に公演される関東学院大学のシェイクスピア英語劇を楽しみにしており、例年続けてみることで前年度の出演者と再会できることが嬉しいのだが、昨年は残念ながらロンドンの観劇と重なって観ることができず、今回はその楽しみが失われていたのが自分にとっては残念であった。
 今回の感想は、アンケート用紙に答える形で述べてみたい。
1. 全体としての感想は、「良かった」。その判断の基準としては、下記のアンケート回答に示す。
2. 発音、声量について
 作品としてはよく知っている内容であるので、今回の新たな試みである字幕は一切見ずに、台詞を聞くことに神経を集中して聴いていたが、いくぶん聞き取りにくい発音があった。声量については十分通る声で申し分ないと思う。自分にとって発音が明晰で聞き取りやすいと思ったのは、シーリアを演じたAoi Takaseさん。
3. 特に注目した演技について
 毎年、役者のように自由自在に演じる学生が一人はいるが、今回はタッチストーンを演じたShogo Yamada君が、舞台を我がもののように自由に楽しんでいるのが見て取れ、観ている側にも安定した安心感を与える演技であったと思う。
 力士チャールズを演じて、前公爵の森の住人をも演じたRyo Koyanagi君は、オーランドーが押し掛けてくる食事の場面で、台詞はなくても森の住人としてその場の会話の中で反応して演じているのが、とても大事なことだと思うので好ましく感じた。
 フィービーを演じたMirai Hiyoshiさんのメイクと演技にも注目した。脇役が面白い劇は劇を引き立たせるが、その脇役の面白さをうまく演じていたのに好感をもった。
4. 音響・効果については特に問題はなかったと思う。
5. 衣裳について
 全体的にはよく雰囲気を出している衣裳だと思うが、森の中でオーランドーが途中から赤い宮廷服を着て登場してきた場面と、オリバーが立派な宮廷服のまま森に登場してきたのは、宮廷とのコントラストでの森が<浄化作用>をする場であると考えるとき、個人的な感想としてはこの衣裳に少し不満を感じた。これは森のコンセプトの問題にもつながると思う。前公爵を追放したフレデリック公爵にしろ、オーランドーの兄オリバーにしろ、森に入った途端に心を入れ替えているのは、浄化作用の表象の一つとして考えることができるからである。
6. 照明については特に言うこともないが、よくできていたのではないかと思う。
7. メイクについては、それぞれに個性を浮き立たせる工夫があってよかったと思うが、中でも注目したのはタッチストーンとフィービーのメイクで、役柄に合ってよくできていたと思う。
8. 舞台装置については、開場に入った途端にこの劇のイメージを一瞬で感じ取らせてくれ、明快なコンセプトを感じて良かった。
9.今回初の試みである字幕については、座席が前列から二番目ということもあって字幕の見やすい位置ではなかったことと、字幕は通常見ない主義なので評価については差し控えたいが、シェイクスピアになじみのない人や、ふだん英語を聞いていない人にとってはよい試みではないかと思う。劇の冒頭の場と休憩の後の冒頭で、日本語による劇の概要の寸劇は、この劇の内容について知っていない人には効果的でよい工夫であるとともに、そのやりとりも非常に良かったと思う。
 最後に、いつも書いていることだが、スタッフを含めて全員揃ってのフィナーレが、劇を見終えた後の一体感とさわやかさを増幅して心を和ませてくれ、劇場を心豊かにして出て行くことができた。感謝!!

 

演出/瀬沼達也
12月6日(金)19時開演、神奈川県民共済みらいホール

 

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