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  明治大学シェイクスピアプロジェクト・第10回公演
              『ヘンリー四世』二部作 一挙上演      
No. 2013-034

 まず最初に、「素晴らしい!!」の賞賛のひとことにつきる。
開演前、クィックリーを演じる岡本摩湖(情4年)さんの挨拶に前半80分はあっという間に過ぎ、休憩15分後の後半85分は瞬く間に過ぎますとあったが、まさにその通り、全部で3時間という時間があっという間に過ぎ去ってしまった。
 昨年は二階席で、演技の表情などもまったく見えず残念な思いをしたので、今年は予約開始の当日に即予約を入れ、Aブロックを確保した。
 公演の当日も開演1時間前のチケット受け渡し開始より少し早く出かけた。それでもすでにかなり並んでいた。そんな努力の甲斐もあって今年は最前列の中央部席をゲットでき、心行くまで演技者の表情や、唾の飛ぶところまで観ることができた。
 さて、その素晴らしさについてであるが、何から始めたものか戸惑うくらい、とにかく素晴らしかった。
 『ヘンリー四世』の一部と二部を一挙に上演ということで、まともに上演すればゆうに5時間は超える作品を3時間にまとめあげ、しかもそのエッセンンスを失わせることなく十二分に楽しませてくれる。
 今年の4月には、蜷川幸雄演出で、『ヘンリー四世』が同じように一部二部を4時間20分で一挙上演されているが、それに引けを取らぬ出来だと思う。
 こちらは学生による上演なので、年齢構成からすればキャストの年齢は4歳の幅しかないのに、若者の役から老人の役までを不自然さを感じさせることなく、むしろ新鮮なダイナミックさを感じさせてくれた。
 『ヘンリー四世』をタイトルロールのヘンリー四世から見れば、政治、権力争いという大人の苦悩の世界であるが、ハル王子やホットスパーの側から見れば青春の世界で、その青春の奔放さと成長の物語でもある。
そして、大人になるということがどういうことであるか、それはハルが王となったとき、フォルスタッフを切り捨てることで比喩的に象徴されるのであるが、最後に高等法院長をして言わしめるフォルスタッフへの言葉には、ハル王子の優しさを感じさせるものがあって、これまで自分が抱いてきた印象とは違う温かみを感じさせてくれた。
 『ヘンリー四世』といえば、まずフォルスタッフが一番の印象であるが、この舞台でもそれに違わず、愛嬌ある巨体のフォルスタッフを演じた橋口克哉君(文4年)の活躍は特筆に値するだろう。
 意外に面白かったというか、うまいと思ったのはフォルスタッフの仲間で周辺人物のポインズを演じた三森伸子さん(文4年)。それにダグラス伯爵とピストルの二役を演じた小田直輝君(情4年)も、二役していると気付かないほどピストルの役がうまかった。
 ほかに、二役で巧みな演技分けをしていたのは、サー・ウォルター・ブラントとシャロー役を演じた黒川隼也君(政経4年)。ホットスパーを演じた串尾一輝君(文3年)はホットスパーの役をうまいな―と感心してみていたが、フォルスタッフに徴兵されたフィーブル役は、ホットスパーの役とは正反対の役として面白く演じた。
 ノーサンバランド伯爵の弟ウスター伯爵を演じた中西良介君(文4年)の演技では彼の目の表情に凄さを感じた。彼もヨーク大司教との二役をしている。
 モーティマー夫人を演じた永平こだまさん(情4年)がウェールズ語(?)で話し、ウェールズ語で歌を歌ったが、その美声には聞き惚れたが、あれは本当のウェールズ語なのかしら、とお尋ねしたい。
 一人一人の演技を誉めているときりがないが、フォルスタッフと共に中心人物であるハル王子を演じた木村圭吾君(政経2年)の演技もフレッシュな感じで好ましかった。
 舞台そのものも素晴らしかったが、今回はこのプロジェクトの10周年ということで、その特集版であるプログラムの内容も非常に充実したもので、読み応えがあった。
 そして今回も早くも来年の公演内容が発表されて、『ヘンリー五世』と『ウィンザーの陽気な女房たち』の同時公演が決定しており、フォルスタッフを二年続けて楽しむことができる。今回演じた橋口君は4年生なので、次回は違った学生が演じることになるわけだが、それもまた楽しみの一つでもある。

 

翻訳/コラプターズ、演出/新井ひかる(文4年)、監修/横内謙介(扉座)
11月8日(金)17時30分開演明治大学駿河台キャンパス・アカデミーコモン・3階アカデミーホール
座席:1階6列15番(最前列中央部)

 

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