今回のこの舞台の最大の特徴は、男役と女役を完全に入れ替えて、男役を女子学生、女役を男子学生が演じたという点につきるだろう。しかもそれが不思議と不自然に感じないものであった。
成蹊大学の4号ホールは、扇形の張り出し舞台になっていて、客席は末広がりにすり鉢の底から這い上がるように後部にいくに従って高くなっている。
舞台上には何もなく、後方のホリゾントに当たる部分に5枚の白い垂れ幕があって、それには大きさもまちまちで、色も、赤や青、茶色などのポケットがところどころに付けられているのが模様のように見える。その垂れ幕が楽屋の仕切りとなっており、役者たちはそこから出たり入ったりする。
開演されると、黒いタイツ姿の女性の役者たちが客席から舞台に声をあげて飛び出してきて、舞台上に置いてある大きな布袋から衣裳を引っ張り出し、めいめい鼻歌をハミングしながら楽しそうに男装の衣裳を身に付ける。
男の役者たちが後からやって来るが、彼らは楽屋裏で素早く女装する。
最初に登場してくるヴァレンタインとプローテュースの会話はいかにも学生たちが交わすような話し方で、女子学生が演じていても男子学生の会話と変わらないように感じ、最近の若者たちの特徴的な姿として自然に受け入れられるために、男女の役柄の倒錯を忘れてしまうほどで、好感のもてる演技であった。
一方、男性の女装は変に「女形」をうまく演じようとしていない(?)ところがかえっておもしろかった。
前半は全体的に演じる側も観客の側も空気が冷めている感じがして、舞台と客席との親和関係がなく盛り上がりに欠けていたように感じたのは自分だけであろうか。休憩時の感想を話しているのを聞いていると楽しんで観ていたようであるが、それが自分には伝わってこなかった。
僕の席は最前列で、舞台からは1メートルも離れていない距離なのに、熱演にもかかわらず熱気を感じなかった。しかしながら、休憩後の後半部は舞台の盛り上がりと熱気を感じたので、自分の受容性の問題かもしれない。
途中の休憩10分間を含めて上演時間は2時間で、台詞のカットも多分にあったが、原文にはない工夫もあった。
たとえば、シルヴィアの手袋をヴァレンタインの召使いのスピードが拾う場面の挿入として、舞踏会の場でシルヴィアがシューリオに気乗りしないまま相手をしているところをヴァレンタインが彼に取って代わって相手を務め、そこでシルヴィアがヴァレンタインを見染め別れ際に手袋を落としていくという設定を仕込んでいて分かりやすかった。
シェイクスピア初期の作品の若書きの喜劇にふさわしい、若者らしい若々しさで、スピード感のある演技で好感のもてる上演であった。
原作を読んでいて不自然に感じる最後の場面、自分を裏切ったプローテュースを許すヴァレンタインも、彼らの演技では現代の若者の気質を肌で感じさせるものがあって、違和感や不自然さを忘れる感じであった。
この最後の場面では、プローテュースを演じている役者が男装の衣裳を脱いで、最初の黒いタイツ姿に戻り、シルビアやジュリアを演じていた役者も同じように衣裳を脱いでしまうが、ヴァレンタインだけがそのままの衣裳であり、何か意図があるのかどうか考えてしまった。
最後の締めくくりは、ジグ踊りならぬ全員のダンスで楽しく終わった。
出演者は、登場人物を二役、三役をする者を含めて、四人の男子と五人の女子、合計9名であった。ケンブリッジ大学のペンブルック劇団の上演は今回初めて観たが、成蹊大学制作のプログラムによると、2007年から毎年招聘していて、今回は7年目になる。
演出/チャーリー・リシウス
9月21日(土)13時30分開演、成蹊大学4号館ホール
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