高木登 観劇日記2013年 トップページへ
 
  劇団AUN第20回公演 『冬物語』      No. 2013-003
 

これまでにも『冬物語』は何度か観てきて、ハーマイオニの像が動き出す瞬間に感動のあまり涙することが幾度かあったが、今回のようにポーリーナがハーマイオニの死を嘆き、リオンティーズをなじる場面で涙したことはなかった。

そして、幾度か涙したハーマイオニの像が動き出す場面では、これまでのように、像が動き出すときの静謐な厳かさに心打たれてというより、ポーリーナとリオンティーズの二人の台詞によって涙がじわじわとあふれてきたのも新しい経験であった。

ポーリーナ演じる沢海陽子とリオンティーズ演じる吉田鋼太郎の台詞力に、心が高揚し、抑えきれぬ感動となって涙が出てきたのだった。

この台詞力は、エコー劇場という狭い空間ならでは保たれる濃密な空気による相乗効果で感動を高めてくれた。

大劇場では味わえない醍醐味である。

演出と主演の吉田鋼太郎は、この『冬物語』が『ハムレット』と並んでシェイクスピアの中で最も好きな作品という。

前半部の暗いシチリアの場面は、背景に枯れ枝の張る古木が荒野に1本だけある風景で、舞台中央部には聖母子の立像が据えられている。

後半部のボヘミヤの場面は、一転して明るい青空のもとの草原の風景で、この劇の前半部と後半部の印象の特徴を表象している。

リオンティーズの突然の嫉妬も吉田鋼太郎の台詞力で自然にその気持に引きずられていき、台詞の力だけでその唐突さの不自然を感じさせない。

ハーマイオニの裁判で、アポロンの神託を信じないリオンティーズの台詞の場面では、通常の演出では雷音や稲妻を走らせる効果を用いることが多い中、台詞のみの静寂な空気が却って強い不安をかきたてる効果があった。

後半部のつなぎとなる「時」の登場もこれまで観てきたものとは全く異なり、意表を突かされるものであった。

ボヘミヤの風景の中から、黒い衣裳に、黒いつば広の帽子をかぶった貴婦人が登場し、「時」の口上を述べる。

後半部の見せ場の一つは何といっても毛刈り祭りに登場するオートリカスであるが、杉本政志が独り舞台を占領するかのように好演し、楽しませてくれた。

そして、場面は再びシチリアに戻り、ハーマイオニの再生と再会の感動の場面であるが、舞台には白布をかけられたハーマイオニの彫像が聖母子像にかわって据えられている。

立像のハーマイオニが、おくるみにくるまれた赤ん坊を腕に抱いていることで、聖母子像のイメージと重なる工夫がなされている。

立像のハーマイオニが動き始める瞬間の感動は冒頭に述べた通りであるが、ポーリーナとリオンティーズの台詞で涙が滲み出てしょうがなかった。

再会の喜びのあと、すべての人たちが退場していくが、最後にフロリゼルとパーディタが残り、二人がみなの後を追っていこうとする時、パーディタが、ハーマイオニが残していった赤ん坊に気付き、それを拾い上げる。

パーディタ自身でもあったその赤ん坊を抱き上げる場面は印象的でもある。

そして、赤ん坊を抱いたパーディタはフロリゼルとともに退場していき、暗転。

リオンティーズの吉田鋼太郎、ポーリーナの沢海陽子の好演もさることながら、喜劇的存在のオートリカスの杉本政志、羊飼い(A、Bで松木良方とのダブル・キャスト)の岩倉弘樹、道化の長谷川志などが舞台を楽しませてくれた。他に、ポリクシニーズに大塚明夫、ハーマイオニに千賀梨央、カミローに松本こうせい。

劇団AUNの台詞力を全員が満喫させてくれる舞台であった。

上演時間は、途中10分の休憩を挟んで3時間。

【感激度】 ★★★★★

 

(訳/小田島雄志、演出/吉田鋼太郎、美術/松本わかこ、1月26日(昼)
恵比寿のエコー劇場にて観劇。C列13番。5000円)

 

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