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  ハイリンド・第14回公演 『ヴェローナの二紳士』          No. 2013-028

― スピードと躍動感にあふれる喜劇を楽しむ ―

 スピードと躍動感にあふれ、シェイクスピア初期の喜劇にふさわしい舞台演出であった。
 舞台中央奥にはイタリアの国旗の三色カラ―の大幕、開演とともにその幕が取り払われ登場人物たちが一斉に飛び出してきて、円陣の形になってキャッチボールを始める。全員の真っ白な衣裳がまぶしい。
 彼らが引っ込むと、すぐにこの物語の二人の主人公、ヴァレンタインとプローティアスの快活な会話の応酬でこの舞台が始まる。台詞にスピード感があって、ぐいぐいと観客を引き込んでいく。
 シェイクスピアの原作がもつ矛盾を含んだような物語の展開や、終わりの場面における、友情を裏切ったプローティアスをヴァレンタインが許すだけでなく、婚約者シルヴィアに対する愛までも与えようとする信じ難いまでの人の良さなどは、そのスピードある進行の中ではなぜか気にもならないまま、大円団まで運ばれていく。
 ヴァレンタインとシルヴィアがミラノ大公の許しを得てめでたく結ばれ、ジュリアもプローティアスの愛を取り戻し、めでたしめでたしとなったところで原作は終わるのだが、ここでは最後に全員が再び真っ白な衣装に着替えて飛び出してきて祝宴の場となる。
 四人の婚約者たちがお互いの顔にパイやケーキを押し付け合って、彼らの顔面は生クリームで真っ白となる乱痴気騒ぎでめでたく閉幕。
 シェイクスピアの初期の作品は、喜劇はもちろんのこと、史劇の『ヘンリー六世』三部作にしても躍動感に溢れる面白さがあると思っているが、ハイリンドの『ヴェローナの二紳士』はその面白さをたっぷりと味あわせてくれた。
 ハイリンドはまったく初めての劇団であったが、そのようなとき先入観を持たずに白紙の状態でその舞台を見ることにしているが、何にも知らないだけに新鮮な驚きがあって楽しさも増幅された気がする。
 観劇後この劇団について少しだけ調べてみると、加藤健一事務所俳優教室の卒業生4人が集まって結成し、その4人で演目や演出者、出演者を決め、2005年からプロデュース公演を始めた集団で、シェイクスピア劇は今回がまったく初めてであるということであった。加藤健一事務所出身だと知って納得したのは、彼らの演技が何よりも観客を楽しませるものであったことである。
 ハイリンドの舞台は、変な理屈や解釈も必要ない、シェイクスピアをそのまま楽しませてくれるものであった。それに、何よりもめったに上演されることがないシェイクスピアの作品を舞台に乗せてくれたことを評価したい。
 登場人物の中心人物には、ハイリンドの4人のメンバーのうち、プローティアスを伊原農、ヴァレンタインを多根周作、ジュリアを狭間美由紀が演じていたが、もう一人のメンバーである枝元萌は今回出演していなかった。
 ヴァレンタインの召使いスピードを演じる江戸川卍丸は、その名の通りのスピードある演技を好演。
 プローティアスの召使で道化役、高木稟と彼が連れている「犬」は、ベケットの『ゴドーを待ちながら』のポッツオとラッキーの関係のようなイメージを彷彿させるものがあった。
 これまでまったくシェイクスピアと縁のない活動をしてきたハイリンドがシェイクスピア劇をプロデュースすることになったのは、2013年の吉祥寺シアターのテーマが「吉祥寺シアターXシェイクスピア」という企画によるものであり、そのおかげでこれまでのシェイクスピア劇とは一味異なる新鮮な舞台を楽しむことができた。
 上演時間は、途中休憩なく2時間。
 【観劇評】 ★★★★

 

翻訳/松岡和子、演出/西沢栄治
7月8日(月)19時30分開演、吉祥寺シアター、チケット:2700円(友の会)、座席:F列8番

 

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