現在、シェイクスピア作品の中でも最も上演される機会のない作品の最たるものの一つは、この『ジョン王』だろう。僕の観劇記録の中では、シェイクスピア・シアターが1993年8月、当時のパナソニック・グローブ座で上演したものと、2000年9月にニュープレイスで上演した2回のみである。
その最も不人気な作品を、シェイクスピア全作品上演を目指す板橋演劇センターが31作目として挑戦したのが、この『ジョン王』であった。
板橋演劇センターでは、今年の9月に『シンベリン』の公演がすでに決まっているので、残された作品は『間違いの喜劇』、『ヴェローナの二紳士』、『ヘンリー六世』(第一部・第二部)、『ヘンリー八世』だけとなった。
一人の演出家による一つの劇団でシェイクスピア全作品を上演する快挙は、出口典雄演出のシェイクスピア・シアターがあるだけであるが、それを上回って素晴らしいことは、板橋演劇センターがアマチュアの地域の活動として続けてきたということである。
1980年7月の第1回公演『夏の夜の夢』以来、実に30年以上にわたって継続されてきている。
シェイクスピアを専門に上演する劇団としては、その活動の長さにおいても1975年以来続けられているシェイクスピア・シアターに続くものである。僕が板橋演劇センターの公演を初めて観たのは、1998年1月、東京芸術劇場(小ホール)での『リア王』であったと思う。
その時のメンバーで今回『ジョン王』に出演しているのは、劇団主宰者で演出家の遠藤栄蔵、鈴木吉行、酒井恵美子の三人だけである。
タイトル・ロールのジョン王を鈴木吉行、アーサー王の母コンスタンスを酒井恵美子、ローマ法王全権大使・枢機卿パンダルフを遠藤栄蔵が演じ、フランス王フィリップには劇団AUNの星和利が客演している。
この四人は劇の中でも重要な役であるが、もう一人獅子心王リチャードの私生児リチャードもこの劇の面白さを左右する重要な人物の一人であると思うが、彼の登場に関しての一連の出来事がこの演出では省略されているため、この劇の概要を知らないといま一つ理解できないのではないかと思う。小笠原游大が好演したいただけに、少し残念な気がした。
全体的な印象としては、台詞をはっきりと大きく発声していたのはよいが、それが一本調子なところがあって、メリハリ、陰影に欠け、単調になっていたように思う。
公演の日程の関係で、このところしばらくこの劇団の公演を見逃していて今回久しぶりの観劇だったが、このように上演されることのほとんどない作品を観させてもらえるのは、この劇団ならではの貴重なことだと思う。
この『ジョン王』公演だけを取ってみても、板橋演劇センターは日本のシェイクスピア劇上演史の中で記録に値すると思う。
上演時間は、休憩なしで2時間10分。
訳/小田島雄志、演出/遠藤栄蔵
6月16日(日)14時開演、板橋区立文化会館小ホール、チケット:3500円、全席自由
|