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2013年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」

●私の選んだ2013年のベスト5

1. 野村萬斎構成・演出・主演の『マクベス』
 3年前、同じ世田谷パブリックシアターで、今回と同じキャストで上演された『マクベス』の再演であるが、美術と表出された内容はまったく一新され、ますます凝縮されて密度の濃い、完成度の高い作品となっている。
   
2. 劇団キンダースペース第34回公演 『新・新ハムレット2013』(構成・脚本・演出/原田一樹)
 20世紀は名優が作り上げたハムレットであったが、これからの新しい時代は、時代が作り上げるハムレットを感じさせた。それは、『ハムレット』が時代とともに常に挑戦の意欲をかきたてるものを内包しているからでもあろう。今年は『ハムレット』関連では、他に劇団BOP公演『ハムレット・レポート』、キラリふじみレパートリー公演『ハムレット』、劇団四季の『ハムレット』を観たが、その中で自分にとって一番刺激的で面白かった。
   
3. 新宿梁山泊第50回公演 『ロミオとジュリエット』(小田島雄志訳、金守珍演出)
 正直なところ、当初、新宿梁山泊のシェイクスピア劇には期待度よりは、どんなものになるかという気持の方が強かったが、予想を覆す素晴らしいシェイクスピア劇で、梁山泊の猥雑奔放さを失わず、しかもロミオとジュリエットにピュアなものを感じさせて、胸にジーンとくるものがあり、感動した。新宿梁山泊がシェイクスピア劇に初めて取り組んだという意外性で取り上げた。
   
4. 明治大学シェイクスピアプロジェクト第10回公演 『ヘンリー四世』二部作・一挙上演
 まず最初に、「素晴らしい」の賞賛のひとことにつきる。『ヘンリー四世』の一部と二部を一挙に上演ということで、まともに上演すればゆうに5時間は超える作品を3時間にまとめあげ、しかもそのエッセンスを失わせることなく、十二分に楽しませてくれた。今年は、彩の国シェイクスピア・シリーズ第27弾として、蜷川幸雄演出で『ヘンリー四世』二部作が同じく一挙上演されたが、その比較においてあえて明治大学の公演をベスト5に取り上げた。
   
5. ハイリンド第14回公演 『ヴェローナの二紳士』(松岡和子訳、西沢栄治演出)
 スピードと躍動感にあふれ、シェイクスピア初期の喜劇にふさわしい舞台演出であった。舞台中央奥にはイタリアの国旗の三色カラ―の大幕、開演とともにその幕が取り払われ登場人物たちが一斉に飛び出してきて、円陣の形になってキャッチボールを始める。全員の真っ白な衣裳がまぶしい。これまでまったくシェイクスピアと縁のない活動をしてきたハイリンドがシェイクスピア劇をプロデュースすることになったのは、2013年の吉祥寺シアターのテーマが「吉祥寺シアターXシェイクスピア」という企画によるものであり、そのおかげでこれまでのシェイクスピア劇とは一味異なる新鮮な舞台を楽しむことができた。
   

●シェイクスピア翻案劇のベスト3

1. 東京シェイクスピア・カンパニー公演 『リヤの三人娘』(奥泉光作、エドワード演出)
 <鏡の向こうのシェイクスピア・シリーズ>の『リヤの三人娘』を観るのは今回で三度目となるが、今年のシェイクスピア関連劇の中でも最高の一つだと思った。なかでも道化を演じた井村昴の演技が特に印象的で圧巻であった。
   
2. 『ロミオとジュリエット』の喜劇 『ハレクイネイド』(テレンス・ラティガン作、広川治訳、保科耕一演出)
 テアトルエコー公演で『ロミオとジュリエット』のバックステージもの、しかも原作の悲劇が喜劇となっていて、プラス耳慣れない「ハレクイネイド」という言葉にひかれた。この笑劇は、単にシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のバックステージものというだけでなく、この劇が初めて上演された1948年という時代背景を頭に入れるとき、現在の視点から見ると当時の演劇の革新的変化の様相を示す台詞を耳にすることで、二重三重に興味がわいた。
   
3. 無名塾公演 『ウィリアム・シェイクスピア』(玄作/カスパー・ヨハネス・ボイエ、音楽/フリードリッヒ・クーラウ)
 この作品は1826年、デンマークの作家カスパー・ヨハネス・ボイエとデンマークの宮廷作曲家であったフリードリッヒ・クーラウとの共同制作で仕上げられ、ボイエの劇場作品の中では最も上演回数の多いものとなったという。有名なルーシーの鹿泥棒伝説に、森番アランを足の不自由な醜い姿をさせてリチャード三世の台詞をしゃべらせ、妖精たちによる『マクベス』の劇中劇が演じられ、締めくくりは妖精のアルフ、オベロン、ティタニアによる『夏の夜の夢』のパックのエピローグの台詞といった具合に、盛りだくさんのシェイクスピア・オンパレードで楽しませてくれた。
   

●翻案劇特別賞

   『リチャード三世』の翻案劇 『鉈切り丸』(青木豪脚本、いのうえひでのり演出)
場面は範頼(鉈切り丸)の木曽義仲追討の場面から始まり、義仲を討った後、その愛妾である巴御前を見染めて、後に彼女を妻とする。この巴御前は『リチャード三世』におけるアンに相当する。範頼がリチャード三世であることは問題なく分かる。範頼の最後の言葉は、「馬をくれ、代わりに王国をくれてやる」ではなく、彼の心を表象する鳶に向かって、「羽をくれ、代わりに鎌倉をやる」と叫ぶ。歴史上の人物を巧みに織り交ぜた脚色の面白さは、エンターテインメントとして楽しめた。


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