高木登 観劇日記2012年 トップページへ
 
  岡本健一の『リチャード三世』       No. 2012-020
 

2009年に新国立劇場・中劇場で上演された『ヘンリー六世』三部作の続編ともいうべき『リチャード三世』が鵜山仁演出で、三部作で演じた俳優が同じ役を演じるという形式で上演され、この史劇の四部作が完結された。

今回も前列の客席を9列取り外し大きく円形を描く形の舞台は、『ヘンリー六世』三部作と同じように舞台全体が砂丘のような広がりを見せるが、その色調は異なり、やや明るい赤銅色をしており、流血と不毛の砂漠を感じさせる。

舞台中央は、丸い盆となっており、回転する仕組みになっており、やや上手よりの奥には跳ね板式に跳ねあげられ、登場人物の出入りに使われる仕掛けがある。

ホリゾントは、手前に透明のビニールの幕が垂れ下がっており、上手奥背景は、場面に応じて太陽などを映し出す大きなスクリーンとしても活用される。

舞台がへんに広いためか、時に冗長に感じる場面が少なからずあり、退屈に感じることがあった。

『ヘンリー六世』の第三部にはサブタイトルに「薔薇戦争」と付けられ、岡本健一演じるリチャード三世が主調をなしていて、『リチャード三世』の予兆を感じさせていて続編の上演が待たれたが、この舞台はまさに“岡本健一の”リチャード三世と名付けるにふさわしいものであった。

これまで名だたる名優がこのリチャード三世を演じてきたが、新しいリチャード三世誕生という感じがした。

歴史劇に登場するヴァイスの道化としての悪役を見事に演じていたと思う。

グロスター(リチャード三世)が最初に登場してくる場面では、舞台奥上手に大きな太陽が浮かび、それが皆既日蝕を呈する。舞台奥からその部分だけ明るく照らし出された道をゆっくりと歩いて舞台前方へと進み出てきて、手前の方で不自由な体が転倒し、起き上がりながら「われらをおおっていた不満の冬もようやく去り」という台詞が繰り出される。

この始まりを見た途端から、すでに魅了されるものがあった。

ただ今回この舞台全体を通しては、森万紀がアン、那須佐代子がエリザベス、中嶋朋子がマーガレット、倉野章子がヨーク公爵夫人を演じた、女性の俳優が特に印象的に強く感じられたことであった。

それはある意味では、女たちから見た薔薇戦争ともいうべき、新しい視点を浮かびがらせてくれたともいえる。

特にマーガレットを演じる中嶋朋子は、これまで観てきたマーガレットからすると若くて美し過ぎはしないかと心配していたのだが、これも自分にとっては新しく新鮮なマーガレットであった。

呪いの言葉を吐くマーガレットはどちらかというと、おどろおどろしい姿、容貌を思い浮かべてしまうのだが、美しい容貌の片鱗を残しながらも、目に隈取りのある醜いフランス人形のような姿をして、憎たれ口を吐くことは衰えていないところがマーガレットらしい。

騎士リチャードやラトクリフなどを演じる吉村直がクラレンス公を殺す殺し屋役で見せる喜劇的な台詞、所作、また堅物な役のスタンリー卿を演じる立川三貴も、人質として捕えられていた息子のジョージが無事であったことを報告する場面ではおどけた調子で語り、喜劇的な感じを持たせる。

『ヘンリー六世』ではヘンリー六世を演じた浦井健治がリッチモンド伯ヘンリー(後のヘンリー七世)を演じさせているのも象徴的な感じを与える。

ボズワースの戦いで、リチャードが「馬をくれ」という場面では、彼が殺された後、舞台後方上手の中空に子どもの遊戯の木馬が浮かび出されるが、そのことからいろんなことが想像される。

一つには、母親からもうとまれ、子ども時代には誰からも愛されなかったリチャードは、欲しい玩具も与えられなかったであろう。兄たちが遊んで楽しんでいた木馬を傍で見ていて、自分にも貸してくれと叫びたかったに違いない。幼年時代の切実な願いが、回想となって「馬をくれ」と叫ばせたというようにも感じられる仕掛けである。

その木馬が登場した時、殺されたリチャードは起き上がって、剣を肩に担いで舞台中央の道を奥へと歩いて進み、静かに消えていくのが印象的であった。

舞台はその印象的な場面で終わらせることなく、リッチモンドが白バラと紅バラの統合をはかり、全体が灰色をしている、フードを被ったマント姿の一同が沈黙した状態で平和をともに祈る。

リッチモンドは手にしていた白バラ、紅バラを交差させて舞台中央に置き、スポットライトがそれを照らし出して、舞台はフェードアウトし、幕となる。

登場人物で特徴的であったのは、子役を使わずに、クラレンス公の子どもの姉弟、およびエドワード四世の皇太子エドワードと王子のヨーク公リチャードを、指人形で、台詞はそれぞれの父親役が語ったことであった。

そのほか、台詞に存在感を感じたのは、ヨークの大司教やイーリーの大司教、ブラッケンベリーなどを演じた勝部演之。

 

上演時間は、途中休憩20分をはさんで3時間40分。

 

(翻訳/小田島雄志、演出/鵜山仁、美術/島次郎、10月15日(月)昼、
新国立劇場・中劇場にて、
S席:1階13列59番、前売り券(シニア割引)7980円、プログラム800円)

 

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