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  タイプス・プロデュース公演第50回記念公演 『冬物語』     No. 2012-019

 『冬物語』を見るとき、2つのポイントに注目している。
 一つは、レオンティーズがハーマイオニに突然嫉妬の妄想を抱き始める時、今一つは、ハーマイオニの彫像が動き始める瞬間の感動的な場面である。
 これまで観てきた舞台では、シチリアを舞台とする前半部の暗いイメージに暗澹たる気持ちになることが多かった。その前半部の暗さに対して、後半の舞台、ボヘミアの明るさと毛刈り祭りの明るい雰囲気と、その明るさを助長するオートリカスの登場で、前半部で感じていた暗い気持が一挙に吹っ飛んで救われる気がしたものだ。
 その効果は、前半部のシチリアの場面が暗く、陰鬱であるほど、この明るさの効果が高まるのであるが、この演出ではそのコントラストが感じられなかった。
 ハーマイオニとポリクシニーズとの距離―物理的・心理的距離―が離れすぎていて、レオンティーズが嫉妬を抱くだけの説得性に欠けているように思われた。その要因としては、演技面での不足も大きい。
 周囲を暗くすることでレオンティーズの暗い感情を表出しようとしているが、レオンティーズの独白も空疎にしか感じられなかった。
 立像としてのハーマイオニが動き始める瞬間の、緊張で張り詰めた空気がなく、レオンティーズとの対面で感じる感動がほとんどわかなかった。
 原作と異なった趣向としては、パーディタをボヘミアの海岸に捨て、クマに襲われて死んでしまったはずのアンティゴナスが死なずに、死んだことにしてカミローとポリクシニーズに仕える。また、パーディタを拾って育てる羊飼いは男でなく女という設定に変えている。
 16年の歳月を飛ばす「時」の役を、ポーライナを演じる役者が演じるのも、自分にとっては初めて見るものであった。また、毛刈り祭りで、息子のフロリゼルの様子を探りにポリクシニーズが老人に変装して現れるのは普通に見るが、カミローが女装して現れるのはこの舞台が初めてで、遊び心としても面白いと思った。
 アンティゴナスは死んでいないので、シチリアで全員が再会する場面では、カミローとポーライナが結ばれることは必然的になくなる。
 出演は、レオンティーズに庄田侑介、ポーライナに森下友香、ハーマイオニに堀明日香、ポリクシニーズに鷲見亮、オートリカスに新本一真。
 個々には不満もあったが、全体的には明るい雰囲気の舞台であった。
 上映時間は、休憩なしで2時間。


小田島雄志訳、パク・バンイル演出
10月9日(火)19時開演、座・高円寺2、チケット:3500円(招待)、座席:F列9番

 

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