高木登 観劇日記2012年 トップページへ
 
  オックスフォード大学演劇協会来日公演 『から騒ぎ』      No. 2012-015 
 

演出のコンセプト、演技と表現力、すべてにおいて完成度の高いものだと高評価できる舞台であった。

演出者マックス・ギルの演出ノートを読まずに舞台を観たのだが、マフィアの世界に置き換えたように感じていたことが、その演出ノートに演出のコンセプトとしてマフィアに設定したとちゃんと書かれてあったので、納得。

シチリアとマフィアはマッチングする設定だったと思う。

その設定を知らずに観ていたので、当初、異様に感じたのは、戦争から戻ってきたドン・ペドロが、メッシーナの知事レオナートと挨拶を交わす場面である。

ペドロは、片手でレオナートの顔面をつかみ、しばらく無言のまま彼の顔を睨めまわすように見つめ、それからおもむろに硬い表情を崩し、レオナートを両手で抱きしめるが、それまでの時間が長く感じられ、こわばった緊張感があって、これは何なのだと訝しく感じたものだ。

男たちのくだけた服装も将校としては場違いに感じる時もあったが、これもマフィアの世界だと分かれば、納得がいく。なかでも、クローディオが四六時中拳銃を身から離さず、ヒーローとの結婚式の時ですら、拳銃を腰に差し込んだままであったので、マフィアとしての設定に間違いないと思ったものだ。

こんなことはみな、演出ノートを先に読んでいれば何でもなかったことだが、逆に言えば、それだけよくマフィアの世界としての設定が描かれているということで、このコンセプトが成功している証とも言える。

劇の初めでは、登場人物の関係が分かりづらかった。

『から騒ぎ』といえば、何と言っても、ベネディックとベアトリスの会話の応酬の面白さであり、ひいてはこの劇の良し悪しもそれで決まってしまうと言っても過言ではないだろう。

個人的な感想から言えば、今回の演出では、演技力、表現力ともに、ベネディックに軍配をあげる。

もちろんそこには演出上の工夫によるものがあるのだが、一番の見物は、ドン・ペドロ、レオナート、クローディオの三人がベネディックとベアトリスを結びつけようとして、ベネディックを釣り出そうとする場面である。

ベアトリスがベネディックにぞっこんであるという噂話をしているところにベネディクトが居合わせる場面であるが、そこへヒーローの侍女が三人に飲み物を運んで持ってくる。

その彼女をベネディックが物陰に引き込み、彼女の服を剥ぎとってそれを自分が着て女装する。

そうして三人の話を物陰からでなく、彼らの身近なところで盗み聞きし、自分のことについて何か気に食わないことを言われると、コップに入った飲み物をペドロにひっかけたりする。

これまでにもいくつか『から騒ぎ』の舞台を観てきたが、このアイデア、工夫を見るのは初めてで、非常に面白いと思っただけでなく、タダものの演出ではないと感心した。

ベネディックの独白の場面では、彼が舞台前面に進み出て観客に訴えるように台詞を言い、明らかに笑いを誘う場面では、一生懸命観客に向かってそのように盛り上げるのだが、自分を含めて日本人は笑い方が下手だと思う。ネイティブの観客であれれば、この場面は間違いなく大きな笑い声を出しているところであった。

おかしく、面白いのが分かっていただけに、ベネディック(の役者)の熱演に気の毒で、済まない事をしたと思う。

ベアトリスの方がベネディックより印象の強い演出もあるが、この舞台ではベネディクト較べて抑え気味に感じた。

マフィアの設定ということを考慮すれば、むしろこれでよかったのではないかと思う。

海外公演という制約で登場人物を減らしたのかどうか分からないが、夜警の場面では、警吏のドグベリーとその部下ヴァージズの二人だけの登場で、そのほかの夜警は登場せず、彼らの台詞はヴァージズが引き受け、書記が聞き取りする場面は、レオナートの弟アントーニオが聞き役となる。

ドグベリーもベネディクトに劣らず重要な役だと思うが、台詞、演技ともに裏の主役にふさわしく堪能させてくれた(と言っても、ヒアリング力の乏しい自分には、彼の台詞や、マラプロピズムを聞き取ることはできなかったし、台詞も半分も聞きとれていなかったのだが、それでも十分に感じるものがあった)。

逃亡したドン・ペドロの腹違いの弟ドン・ジョンがペドロに拳銃で撃たれて死ぬ(奥舞台で、拳銃の音がそのことを暗示するだけだが)のも、マフィアの世界らしい締めくくりと言える。

大円団は、二組の結婚を祝し、全員が舞台狭しと踊って、すべては、Much Ado About Nothing!

 

今回は、東京芸術劇場の改修工事が完成していないこともあって、その近くにある舞台芸術学院内ホール(池袋)での上演であったが、むしろそれがよかった。

観客席の数が少ないだけでなく、舞台の高さも平土間から30センチほどしかなく、最前列だと舞台がすぐ目の前で、臨場感もすごくあり、一体感を感じながら舞台を楽しむことができた。

OUDSの来日公演は今回が10回目であるということで、その節目を飾るのにふさわしく、これまでにも何度か観てきた中でも最高の舞台の一つであったと断言できる。

 

(演出/マックス・ギル、8月27日(月)昼、舞台芸術学院内ホールにて観劇。自由席で、
1列2番の席)

 

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