高木登 観劇日記2012年 トップページへ
 
  『ヘンリー六世・第三部』&『リチャード三世』      No. 2012-013 
 

子供のためのシェイクスピア・カンパニー公演

二日に分けて『ヘンリー六世・第三部』と『リチャード三世』を観た。

一日でこの二作を観ることもできたのだが、結果的には二日に分けて正解(?)であった。

というのは、この二作でリチャードを演じる山崎清介が、15日(日)の『ヘンリー六世・第三部』では休演したものの、翌日の『リチャード三世』では無事出演したので、本来のキャスティングとは異なる舞台を観ることができたからである。

『リチャード三世』は、このカンパニーでは2006年にグローブ座で上演されており、今回は再演であるが、キャスティングが前回と一部変わっている。

前回王妃エリザベスを演じた伊沢磨紀はマーガレットを演じているが、リッチモンドの役は今回も同じく彼女が演じている。(ちなみに前回マーガレットを演じたのは、間宮啓行)

15日の『ヘンリー六世・第三部』で山崎清介の代わりにリチャードを演じたのは、新国立劇場研修所第三期生の長本批呂士で、人形さばきも声色も、(突然のピンチヒッター?)代役とは思えぬほど堂々とした演技だった。

『ヘンリー六世』三部作については、2009年に新国立劇場で鵜山仁演出によって一挙上演され、翌2010年には彩の国さいたま芸術劇場で、蜷川幸雄演出による三部作を二部に集約しての上演が記憶に新しいが、国内ではそれまでほとんど上演されることがなかった作品であった。

この作品は原作で読んでも面白く、自分の大好きな作品の一つでもあるが、特に第三部は、『リチャード三世』を読む上にも、これを読んでいると興味が倍増するだけに、この二作の組み合わせの連続上演は嬉しい企画であったし、実際に観た感想としても、期待以上のものがあった。

前回の『リチャード三世』の上演内容はすっかり忘れてしまっていたので、自分の観劇日記を読み返してみて驚いた。舞台立ち上がり部で、『ヘンリー六世』の終りの部分がまったく同じように繰り返されているので、今回の同時上演での変更かと思ったが、前回も同じようにその部分が挿入されているのだった。

今回は何気なくしか見ていなかったリチャードの左手の人形、それは彼の奇形を表象するものであるが、前回その意味について観劇日記に詳しく記していた。以下はその一部の引用。

<リッチモンド(伊沢磨,紀が王妃エリザベスとの二役)がリチャードを倒した後、その左手の人形を切り離し、自分の右手に持ち替える。左利きは異端の表象であり、人形を右手に持ち替えることに正当性への復帰を暗示するかのようでもあるが、演出を見る限りでは、リッチモンドがリチャードから左手の表象である人形を取り上げて自らがそれを手にする姿を見て当惑と驚きの表情を見せるスタンリー卿は、むしろそれを制止するかのように見えた。そこにむしろ表象的な予兆を感じた。>

観劇のメモをとっていないので、『リチャード三世』を観た後では、前日見た『ヘンリー六世』の感想は完全に記憶から消えてしまった。書くべきこと、書き残しておきたいことなど沢山あったのだが、リチャード三世がその記憶を抹殺してしまった。

この二作で印象に残っているキャスティングは、マーガレットを演じた伊沢磨紀、それに前回も同じ役のエドワード四世とヨーク公爵夫人(特にその早変わりの場面)を演じた佐藤誓、二人のリチャード三世(『ヘンリー六世』の長本批呂士と『リチャード三世』の山崎清介)、若松力のヘンリー六世など。

1995年に始まったこのシリーズの全作品に出演している戸谷昌弘も、その若々しさを失わずシェイクスピアの面白さを全身で演じている。彼は、『ヘンリー六世』ではヨーク公爵で大人の演技を演じ、『リチャード三世』ではエドワード四世の皇太子エドワードで子供役を演じている。

エリザベスを演じる今回で6回目出演の大内めぐみ、ジョージ(リチャードの次兄)やスタンリー卿などを演じる5回目出演の山口雅義、2回目ながらも劇団AUNでシェイクスピア劇を鍛えられている谷畑聡(クリフォード/グレーなど)、そして今回初出演で、新国立劇場演劇研修所第四期終了のチョウ・ヨンホ(ウォリック/リヴァースなど)と佐藤真希(ヘンリー六世皇太子/アンなど)が新風を吹き込むことで、このカンパニーがいつまでもフレッシュさを失くさないでいるのに一役買っている。

ベテランと新人の組み合わせ、このアンサンブルもこのカンパニーの楽しみの一つ。

来年はこのカンパニーとして初めてのローマ史劇、『ジュリアス・シーザー』が予定されている。

 

(訳/小田島雄志、脚本・演出/山崎清介、7月15日(日)、16日(月)、
池袋の“あうるすぽっと”にて観劇)

 

>> 目次へ