高木登 観劇日記2012年 トップページへ
 
  YSG第9回公演 Henry [ 『こちらヘンパチ研究室』      No. 2012-012
 

YSGとして初めての歴史劇、しかも国内ではほとんど上演される機会のない『ヘンリー八世』に挑戦。

僕が抱いた疑問、「なぜ、『ヘンリー八世』?」は、誰もが同じ疑問を抱いていたであろう。

パフォーマンス後のアフタートークで、ナレーター他を務めた司会進行役の小池智也君が、演出をした(タイトルロールのヘンリー八世も演じた)佐藤正弥に、真っ先に出した質問がこれであった。

佐藤正弥からは、こじつけも含めて色々説明があったが、その中で、座長の瀬沼達也がこれまで演じたことのない作品であれば、他の出演者とまったく同一条件になるという理由を、僕としては一番に取り上げたい。

この作品を取り上げた理由がどんなものであろうと、これを、しかも英語での上演に挑戦したことに、非常に貴重なものを感じる。

『ヘンリー八世』の英語による上演は、海外からの来日公演を含め、国内では初めてではないかと思う。

『ヘンリー八世』の上演史を見ると、18世紀末からは枢機卿ウルジーと王妃キャサリンに焦点を当てた上演が主流になっているようだが、佐藤正弥の演出では、中心人物に、この二人に加えてヘンリー八世を含めたトライアングルの構造に仕立て上げているのが特徴と言える。

彼ら三人が中心人物であるというのは、衣裳にも表わされている。

ウルジーは緋色の僧服と、枢機卿を表象する緋色の帽子をかぶり、ヘンリー八世は一見して王たるにふさわしい衣裳をつけ、王妃キャサリンは清楚な中にも威厳があり、悲劇的ヒロインに相応しいものであった。

また、これらの登場人物を演じた、瀬沼達也、佐藤正弥、小嶋しのぶの三人の台詞力、表現力、演技力には、聞き惚れ、見惚れるものがあった。

特にウルジー卿を演じた瀬沼達也は、患っていた病気の再発の懸念があるということで、観衆に失礼があってはならないと、台本をもっての出演を予め知らされていた。

しかしながら、幸か不幸か、演じるウルジーが僧侶の身ということで、手にしている台本が聖書か何かのように見えて、まったくと言ってよいほど不自然に感じられなかったのも、演技力の力と言える。

瀬沼達也の英語の台詞力はいまさら言うまでもないが、今回(というか今回も、でもあるが)、彼の表現力と演技力にも魅了された。

ここで僕が表現力という言葉を使ったのは、台詞力と演技力をあわせたようなものを言う。

王妃キャサリンを演じた小嶋しのぶがウルジー卿に対する視線の厳しさは、瀬沼達也自身、思わず後ろに一歩身を引きたくなるほどに感じたと言わせるほど、迫真的なものであった。

アフタートークで、観客の一人であるNさん(シェイクスピア・シアター2期生であり、浅田ゼミの卒業生)が、彼女の演技力の素晴らしい進歩について誉めていたが、まったく同感である。

今回、素晴らしかったのは、脇役が非常によかったということである。

主役の三人を引き立てるために、彼ら(というか彼女ら)の衣裳は、黒色で黒子的な存在に徹している(ただし、杉山由起が演じるアン・ブリンは準ヒロインで華やかな存在であるので、ピンク色の衣裳を身に付けている)。

大病後、三年ぶりの舞台となる増留俊樹のバッキンガム公爵の台詞も、彼の抑えた声の中に荘重さがあり、病気の前よりむしろうまくなったのではないかと思わせた。何よりも彼が舞台復帰できたことが嬉しい。

関東学院卒業後、結婚で三人の子供の養育でこれまで参加できなかった飯田綾乃さんは、十数年ぶりとは思えない英語力、演技力に感心した。彼女の長女である菜生ちゃんが聖霊として登場し、親子での出演となった。

YSGのメンバーでもなく、関東学院の卒業生でもない依田香織さん、関谷啓子さんが今回、初参加。

依田さんは現役の俳優として活躍中であるが、英語の台詞はやったことがないということもあって、その他の人物を日本語で演じた。

その他の人物の日本語での台詞は、話の筋の脈絡をつなげる接着剤的な働きをしているので、無機質的な表現で、抑揚も抑えたものであった。

個人的にはこの演出に特に不満はなく、むしろこれでよいと思ったが、Nさんはその方法に少し不満を感じられ、アフタートークでそれを指摘されていた。

関谷さんは、ポルトガル語もできるという語学の堪能な方であるが、演劇には経験がないものの、ジャズソングなどを歌っている方だけに、キャサリンの前で歌う歌のうまさと、自然体で演じる演技が素朴でよかった。

日本語ナレーションを作った小池君の台本も一味工夫を加えたもので大変よかったが、辛口批評のNさんから、台詞力をもっと身につけるようにときついながらも、親身な助言がされた。

 

関東学院大学で英語劇とゼミナールで多大な貢献をされ、今日のYSGがあるのは、今年1月に亡くなられた浅田寛厚先生のおかげであるということで、この公演を当初、追悼公演という形で考えたが、それだと多数の卒業生が集まって一般の人が見る機会もなくなるということもあり、その気持だけを抱いての公演であることを、座長の瀬沼達也より最後の挨拶としてあった。

 

YSGの公演は、関東学院の学生たちの協力もあってできているというだけでなく、毎年実施されている関東学院シェイクスピア英語劇は、YSGのメンバーからの指導を受けているという関係もある。

その学生たちから今年の公演についてのプレゼンテーションがなされた。

今年の演目は、関東学院でも2番目に多く上演されているという『から騒ぎ』と決まっている。

オーデションでベアトリスの台詞を演じた今年の新入生が、プレゼンでその時のものを演じて見せてくれたが、その英語力、演技力はとても新入生とは思えない度胸が据わったもので、今から期待で胸が膨らむ思いであった。

今年はOUDS(オックスフォード大学の学生たち)が久しぶりの来日で、偶然にも同じ『から騒ぎ』を上演することになっているので、同じ学生たちの上演ということで、関東学院の皆さんの、彼らに負けない表現力(舞台の上だけでなく、舞台装置、照明など裏方の一切を含めて)を期待してやまない。

関東学院の『から騒ぎ』は、11月30日(金)と12月1日(土)、神奈川県民共済みらいホールにて上演される。

 

演出/佐藤正弥、日本語ナレーション台本/小池智也、7月7日(土)、
横浜山手の西洋館・エリスマン邸(ホール)にて観劇。

 

【追記】 
終演後、浅田ゼミの卒業生である、Nさん、Fさん、Kさんに誘われ、元町のイタリアレストランで、ビール、ワインとイタリア料理を味わいながら、楽しい歓談のひと時を過ごした。三人の方々は、僕にとってはまったく初対面であったが、シェイクスピア劇を通して、以前からの友人のように、何の気兼ねもなく話すことができた。

 

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