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  インターナショナル・シアター・ロンドン、第38回来日公演
               『マクベス』 MACBETH        
No. 2012-010

 例年5月になると楽しみにしているITCL(インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン)が今年もやって来た。このところ早稲田大学での上演で観ていたのだが、今年はどういうわけか早稲田での公演はなく、そのため学習院女子大学での公演で観ることにした。
 これまで、お馴染みのメンバー来日であったのが、今回は、バンクォーを演じるディヴィッド・チテンデン以外は自分としては初めての俳優たちばかりであった。
 ITCLの演技の特徴は少人数(6人)で登場人物を複数演じるために、衣裳を含めての早変わりが多く、動きが軽妙で、それを見ているだけでも楽しく、スピーディな展開に活気があふれているのがいい。
 今回特に特徴的だったのが、振付による多彩な身体表現の所作であった。
 それは、ダンカンその他の役を演じるエリック・テシエ・ラヴィーニュがもともと振付師でもあり、彼による振付の演技が多く取り込まれていることにもよるようだ。
 言葉による表現の前に、身体表現による所作がかなり重要な役割をしていて、その場面の台詞を知っている者にとっては、身体表現が台詞の代わりなっているのであろうかと思わせるほど長くその演技が続く。
 まず冒頭の魔女登場の場面がそうであった。
 三人の魔女たちの身体表現が台詞のないまま長く続き、そこに魔女と同じような衣裳を付けた黒子のような存在の三人が魔女の輪に加わるが、その三人は魔女たちに殺され、舞台に倒れる。倒れた三人は、この悲劇の中で殺される重要人物の、ダンカン、バンクォー、マクベスの表象、あるいは予兆としてもとらえることができる。長らく待たせられた後、この場での魔女の台詞が原作通りに語られる。
 三人の魔女に出会ったマクベスとバンクォーの二人が、両手を縛られたような格好で上に挙げ、棒立ちになって金縛りにあったような状態で魔女の予言を聞く姿の演出は、新鮮で面白いと思った。
 門番が登場する場面では、門番(ラヴィーニュが演じる)ともう一人(マルコムやマクダフ夫人を演じるサスキア・ロディック)が登場し、二人が台詞なしで、アクロバット的な動きと、ドタバタ喜劇的なタッチで笑わせて楽しませてくれるが、その時間があまりに長いので、門番の台詞はないままで終わるのかと思いきや、きっちりと聞かせてくれる。このように振付や、多彩な身体表現の特徴とともに、演出面でも特筆すべき点がいろいろあった。
 その一つは、ダンカンを目の見えない人物として造形している点である。
 ダンカンは、常に付き添いのものに手を引かれて登場するので、はじめはその動き方から、足が不自由な人物として設定されているのかと思っていた。
 マクベス夫人の歓迎を受けた時、ダンカンが彼女の顔じゅうを探るように手で触っているのは何のためかと疑問に感じたが、当日偶然一緒になったSさんの指摘で、ダンカンは目が見えないのだと知った。
 これまで『マクベス』の舞台も見たこともなく、原作も読んだことがないSさんは、先入観がないために却って素直にものが見えたのだった。
 ダンカンの目が見えないということの意味は、人の本心が見えない、見抜けないことをも象徴することになる。
 今一つ注目すべきことは、最後の場面でマルコムに王冠を被せようとする時、魔女たちが登場し、「きれいは、汚い」の台詞を繰り返し、この悲劇の連環性を象徴することになる点である。
 この場面では、結局、魔女の台詞だけで、マルコムの戴冠宣言はないままで舞台が終わるのも特徴である。
出演は、先に挙げたほかには、マクベスにクリスチャン・フリント、マクベス夫人にルィーズ・リー、マクダフにアラン・ミレ。
 上演時間は、途中20分間の休憩を入れて、2時間30分。

 

演出/ポール・ステビングス
5月26日(土)16時30分開演、学習院女子大学・やわらぎホール、チケット:2000円

 

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