能舞台正面、側面の羽目板の鏡板は、老松、若竹に代わってペリクリーズの遍歴する地中海沿岸を描いた地図が大きな垂れ幕となって占め、その地図にはペリクリーズの旅路の航路が記されている。
舞台正面と側面の前方には、それぞれ三個ずつの小さな三角形をしたテント状のものが並べられている。
ガワ−を除く全員の役者が位置につき、ギターとともに雅楽の囃子に使うような楽器の音楽がひとしきり奏でられ、銅鑼の音で、橋掛りから登場してきたガワ−の台詞が始まる。
語り部の詩人ガワ−を演じる栗田芳宏が、アンタイオケの王アンタイオカス、アンタイオカスに仕える貴族タリアード、ターサスの太守クリーオン、ペンタポリスの王サイモニディーズ、エフェソスの貴族で医者のセリモン、ミティリーニの売春宿の客引きボールトと実に七役をこなす。語り部ガワ−を演じるときは無帽であるが、役を変えるたびに三角形のテントから、それぞれの役に合わせて、王冠や、帽子を取り出してそれを被り、テントの布は懐にしまわれ、時に応じて書状の小道具などとして使用される。
舞台にあるその三角形のテント状のものを見た時、それがペリクリーズの遍歴する場所を表象するものではないかとまず思ったのであるが、結果的には正しい推察だったとも言える。
ガワ―が変身する6人の役は、ペリクリーズが巡る6つの場所をも表わすことになるからだ。
その三角形のテントの最初の役割は、アンタイオケでアンタイオカスの娘に求婚して失敗した者たちのさらし首を表わすことになる。そして、栗田が役を変わるごとに、一つ、また一つとその三角形のテントは消えていく。
七役をこなす栗田芳宏はほとんど舞台に出ずっぱりであり、能舞台で言えば、彼がシテで、ペリクリーズがワキ、タイーサはツレの関係という印象であった。
タイアの貴族ヘリケイナスを演じる荒井和真の弾くギターの音色がもう一つの主役といってもよいほどに効果的に使用されていた。
ペリクリーズがペンタポリスで槍試合の後、サイモニディーズの前で披露する剣舞、そしてタイーサと二人で踊るフラメンコも異色の演出でよかったし、これも見どころの一つであった。
ペリクリーズとタイーサの再会の場面は、静かな、それでいて熱い感動があった。
主な出演者は、ペリクリーズが柄谷吾史、タイーサとダイアナに山賀晴代、マリーナは田上真理奈、ライシマカスを西村大輔が演じた。
休憩なしで1時間50分の上演時間は、凝縮された濃密なものであった。
席は側面の「ほ」の10番で見やすい位置だった。
訳/松岡和子、構成・演出/栗田芳宏
9月23日(金)17時開演、東中野・梅若能学院会館、チケット:4500円
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