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  秒速273km 第1回公演 King of Shadows      No. 2011-019
 

スーザン・クーパー原作の”King of Shadows”をミュージカル劇に仕立てた、<秒速273km>の第1回公演。

原作の持ち味を十分に生かしながら、『夏の夜の夢』を劇中劇にして楽しい音楽劇に仕上げている。

劇中のシェイクスピア作品、『夏の夜の夢』、『テンペスト』、『ソネット、116番』を奥景子さんの新訳が若々しく新鮮。なかでもソネットの訳はきれいで素晴らしい。

劇場には開場の1時間半前に到着し、十分に時間があったので、その奥景子さんの新訳の展示をゆっくり読むことができ、ソネット116番の新訳の素晴らしさに軽い嫉妬すら感じた。

劇中でもこのソネットが効果的に使用される。シェイクスピアが少年俳優ナットにこのソネットを贈る場面では、シェイクスピア自身が朗読し、最後にはこのソネットを全員が歌って踊る。

この公演の観劇に当たっては、劇中シェイクスピア作品の翻訳に当たったその奥景子さんの紹介によるものだが、<秒速273km>という団体名にまず関心が向く。

上演作品『夏の夜の夢』のパックの台詞に地球を40分で一回りするというのがあり、その時速かと思ったりもしたが、計算が合わない。奥さんの話では、その数字には特に意味はなく、感性的なもので、勢いを示す数字ということであり、この団体(劇団という名は使っていない)のコンセプトとして「目標に向かって全速力で駆け抜ける」を掲げ、それを表象して<Dashくん>をキャラクターとして使っている。

生演奏のオリジナル楽曲を組み入れたミュージカルを上演する演劇プロジェクトとして、1年前の2010年夏に立ち上げた学生を主体とした若い人たちの集団で、舞台美術から、照明、音響、衣裳・メイク、ミュージシャンン、役者などそれぞれが自分の役割をこなす集団である。

スーザン・クーパーの原作を読んでいたのでこの劇の展開も非常によく理解できたし、かなり原作に忠実にうまく脚色されていたと思ったが、内容を知らない者にとっては、このストーリーの持つミステリアス的な面白さを十分に感じることができなかったのではないかとも思った。

原作の題名は、シェイクスピアの『夏の夜の夢』の中のパックの台詞からとられている。

妖精の王様オーベロンに対する呼びかけの言葉で、shadowsはここでは妖精たちを指すが、劇中劇でオーベロンを演じるシェイクスピアに置き換えれば、このshadowsは役者たちということでもあり、シェイクスピアが役者にとって王様となる。(原作のタイトルはここに趣意があると思っている)

劇中のネイサン・フィールド(1587−1620)は実在の人物で、実際に1600年まで聖ポール・スクールの生徒であったし、1615年にはシェイクスピアの国王一座に所属し、リチャード・バーベッジと並び称せられる名優だった。

この物語の設定は、ロンドンのグローブ座誕生から400年を迎える、現代の1999年。

その400年祭を記念して、ロンドン出身で米国マサチューセッツ在住のアービーこと、リチャード・バベッジ(バーベッジではない)が少年俳優を募ってグローブ座で『夏の夜の夢』を上演することを計画する。アービーは意図をもって、幼くして両親を亡くし、今は父の妹である叔母に育てられている少年俳優のナット(ネイサン)・フィールドをパック役に選抜する。

ロンドンに着いたナットは宿泊先の家で原因不明の熱を出し、救急車で運ばれペストだと診断される。

ここで1999年のナットと1599年のネイサンが時空移動して入れ替わり、ナットはネイサンとしてシェイクスピアの宮内大臣一座でエリザベス女王を迎えての『夏の夜の夢』上演でパックを演じ、大成功を収める。

その時オーベロンを演じたシェイクスピアがナットのために、パックのその後を書くことを約束する。

それが『テンペスト』のエアリエルである。

ナットが1599年のネイサンと入れ替わったのは、死病で伝染病のペストにかかったネイサンがシェイクスピアと一緒になっていたら、シェイクスピアの代表作品が生まれていなかった、そのためペストにかかったネイサンを病院に隔離し、ナットと入れ替えたというのが原作の設定である。

原作の着想の面白さにひかれていたので、これをどのように舞台化するかが楽しみでもあった。

舞台全体の感想としては、いまだ熟さざるところ(人はこれを未熟ともいう)があり、初日ということもあってか演技にも硬さも感じられたが、ダッシュでゴーといこう。生演奏がよかった。

公演は、8月27日(土)の昼夜2回、28日(日)の昼夜2回、合計4ステージである。

会場は、小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩3分、川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場。

上演時間は休憩なしで約1時間45分。

演出・脚本・振付は当団体主宰者の一人で早稲田大学出身の志藤裕輝。

 

(原作/スーザン・クーパー作“King of Shadows”、翻訳/井辻朱美、
シェイクスピア作品引用部分新訳/奥景子、8月27日(土)昼の部を観劇)

 

【追記】
団体名「秒速273km」は、主宰者3名の名、志藤裕輝の「シトウ(2)」、笠川奈美の「ナミ(7)」、水口早香の「サワカ(3)」を疾走感ある「秒速〜km」という言葉と組み合わせた名前であることを、その後奥景子さんから連絡いただきました。

 

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