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  インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン来日公演
          Much Ado About Nothing (『から騒ぎ』) 
No. 2011-011

 6人で演じるITCL(インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン)の『から騒ぎ』は、役変わりの目まぐるしさで展開する。
 例年おなじみのリチャード・エドとナタリア・キャンプベルは、予想通りベディックとベアトリスを演じた。
 メッシーナの知事レオナートを演じるリチャード・クロッドフェルターも毎年来日しておなじみで、懐かしい。
 開演は、舞台奥から呼ぶ子の笛の音と喧騒から始まる。
 数名の俳優が観客席まで飛び出して、いきなり戦争の場面。
 ドン・ジョンがクローディオに捕えられ、改心すれば兄ドン・ペドロに許されるだろうと、頭にはバケツを被せられ、手を縛られて連行されていくところまでは、原作にない序章の場面として加えられている。
 ドン・ジョンとドン・ペドロをデヴィッド・チッテンデンが一人二役を演じる。ドン・ジョンの姿の時にはナポレオン帽のような帽子をかぶり、灰色のコート、手にはいつも黒猫を抱いて陰気な様子を出している。ドン・ペドロの役ではフランス軍のような赤い軍服姿でいかにも陽気な感じである。
 男優4名、女優2名の構成なのでベアトリスを恋の罠にかける場面では女役が不足する。不足分のマーガレット役を男優が演じて補足するが、うまく女装しているのでどの男優が演じたのか見分けがつかなかった。
治安官ドグベリー役も4人の男優のうち誰が演じたのか気がつかないで見過ごした。
 僅か6人でさまざまな役をこなす上に素早い動きなので、誰が誰を演じているのかわからないまま見過ごすことが多いので、誰が誰を演じているのか探り当てようとするゲーム感がある。
 ボラチオの逮捕の場面では、観客席から観客を引きだしてボラチオに仕立てて舞台に引き上げ、捕らわれの状態にするという観客を巻き込むという遊びもあって舞台が和やかになる。
 クローディオとヒーロー、ベネディクトとベアトリスがめでたく結ばれる大円団の場面で、捕まえられてきたドン・ジョンが冒頭の場面と同じく、頭にはバケツを被せられ、手は縄で縛られているのが象徴的であった。
 その状態のジョンをクローディオが、ピストルでバケツの上から頭を撃ち抜く。
 冒頭の戦争の場面とこのエンディングが原作にはない挿入であるが、そこに演出の意図の集約を見る思いがした。
 ITCLのシェイクスピア劇は、少人数の俳優が多数の役を早がわりに演じるところがいつも楽しい。
 松岡和子著、『すべての季節のシェイクスピア』にこんな文章がある。
 <少人数のグループでたくさんの役を演じると、役者たちは芝居全体のエネルギーを感じるのです。そのエネルギーは観客にも伝わり、観客も一緒になって楽しむ。役者が早変わりで舞台に登場すると、観客もゲームに巻き込まれるからです>(「すべてのものが二重に見える」の章より)
 ITCLの劇がまさにそれだと思う。


脚色・演出/ポール・ステッピング
5月16日(月)、早稲田大学大隈講堂

 

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