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  劇団鳥獣戯画公演 『国盗り嫁娶り案山子合戦』     No. 2011-010
 

― 戦場のシェイクスピア その壱 ―

劇団鳥獣戯画によるシェイクスピアの換骨奪胎の新作、「戦場のシェイクスピア(その壱)−国盗り嫁娶り案山子合戦」。そのタイトルから想像したのは『リチャード三世』だったが、予想は見事に外れ『ヘンリー五世』を主軸にした作品だった。

時と場所は日本の戦国時代、武田信玄と上杉謙信の川中島の合戦をめぐっての創作劇。

武田軍がイングランドで信玄はヘンリー四世に相当し、上杉軍はフランス側になる。

川中島の六度目の合戦をアジンコートの戦いになぞらえ、ここで武田軍が辛勝し、信玄の長子虎之助が謙信の愛娘綱姫との結婚で武田と上杉は和解し両者が一体となる。この話は赤薔薇と白薔薇の統合を象徴する。

武田の「武田菱」の軍旗は赤色、上杉の「毘沙門天」の軍旗は白色となっており、はじめホリゾントに二つ分かれてかかげられているが、最後は両者の旗が一つに重ね合わされ一体となる。

これは『リチャード三世』の最後の場面、リッチモンド(のちのヘンリー七世)の赤薔薇と白薔薇の統合の宣言の場と重なる。

川中島の合戦を主筋にしてシェイクスピアの他の作品群が割り込み、歌と踊りが加わって、劇がスピーディに展開していく。

武田と上杉の国境には「浮名の森」があり、それは『マクベス』のバーナムの森にあたる。

そこには妖怪が棲んでおり、一度入り込んだら出てこられないという森。

その妖怪の老婆は大釜を煮えたぎらせており、「きれいは、きたない」の台詞をつぶやく。

浮名の森を通り過ぎる旅役者たちは『ハムレット』の旅役者をすぐに思い出させる。

その旅役者の一座の座長を当劇場のオーナーである本多一夫が扮するところも心にくい趣向。

のちのヘンリー五世となるハル王子(ここでは虎之助)にはおなじみフォルスタッフがついている。

フォルスタッフとハル王子の関係は『ヘンリー四世』の放蕩の場面のエピソードが入り、フォルスタッフはさらに『ウィンザーの陽気な女房たち』のフォード夫人とペイジ夫人への求愛と彼女らによる報復の挿話へと発展する。

虎之助にはフォルスタッフとは別に三人の若い取り巻きがいて、彼らは『恋の骨折り損』のナヴァール王国の王と貴族たちに相当し、そこに良家の子女に変装した謙信の娘綱姫と彼女に仕える貴女たちと教育係のお女中がやってきて、それぞれ相思相愛の仲ができる。

そこへ綱姫の父謙信の危篤の知らせが届き、女性たち一行は四人の若者に決して他の女性に眼を向けないという誓約をさせて国元へと急ぐ。

実は謙信は妖怪「お妖」によって病から回復していたのだが、それには謙信の部下軍兵衛にお妖を浮名の森から連れてきたら娘の綱姫を娶らせるという約束事があったのだった。

お妖が軍兵衛に一目惚れし、謙信に彼の病を治したあかつきには軍兵衛と添わせてもらう約束をする。

軍兵衛は殿との約束通り綱姫との結婚を迫るが、綱姫は虎之助を恋しており、ここにもつれた三角関係が生じる。お妖は綱姫と協力して暗闇の中、軍兵衛と閨を共にする。

これは『尺には尺を』のアンジェロ、イザベラ、マリアナとの関係の話しに相当する(ここでイザベラ、イザベラと歌が挿入される)。

劇団鳥獣戯画は歌と踊りを主体とした劇を専門としているので、この劇もこのようにシェイクスピアのストーリーを本歌取りして、歌と踊りでテンポよく展開していく。

エンディングは僕の好きな曲の一つ、ビートルズの’All You Need is Love’、そしてフィナーレにはいつも通りの歌と踊り。

劇団看板女優の石丸有里子の七変化の役も一つの見どころ。

 

パンフレットにシェイクスピアで好きな作品のアンケートが出演者全員の四十人から寄せられている。

一人で複数の作品を挙げている人もいるので総数は合わないがここに紹介すると、

 

1.『夏の夜の夢』 (11名)

2.『ロミオとジュリエット』 (5名)

2.『十二夜』 (5名)

4.『ハムレット』 (4名)

4.『ヴェニスの商人』 (4名)

6.『マクベス』 (3名)

7.『テンペスト』 (2名)

8.『冬物語』、『リア王』、『ヴェローナの二紳士』、『間違いの喜劇』、『タイタス・アンドロニカス』、『尺には尺を』、『リチャード三世』 (各1名)

 

人気の一番は『夏の夜の夢』。

僕が劇団鳥獣戯画と出会ったのも、実はこの劇団による『夏の夜の夢』の公演が最初だった。

 

(作・演出・振付/知念正文、音楽/雨宮賢明、5月4日(水)夜、下北沢・本多劇場にて観る)

 

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