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  杉並シェイクスピア祭2011/日英朗読劇の夕べ      No. 2011-008
 

<首都シェイクスピア祭2011>(4月8日〜23日)の行事の一環として、荒井良雄先生主宰による<?芸館・杉並シェイクスピア祭2011>(4月21日から23日)のうち、22日(金)夜の部の<日英朗読の夕べ>を聞く機会を得た。朗読劇は『ヴェニスの商人』の「法廷の場」を英語版と日本語版で上演し、途中に清水英之氏の「シェイクスピア・ソング」の演奏が入るという趣向であった。

英語朗読劇は荒井良雄先生がバッサーニオとアントーニオ、元静岡英和学院大学教授の清水英之氏が公爵、水谷利美学習院大学講師がポーシャ、そしてYSG座長の瀬沼達也氏がシャイロックを担当。さながら文士劇に対しての学士劇(大学関係者による劇)とも称されるべきものといえよう。

朗読劇といってもほとんど舞台上演に近いもので、リアルで迫力のある台詞劇であった。なかでも荒井先生の声はそのお歳からは信じられないような力強い、ハリのある声で、迫真的な所作まで伴うという熱のこもり方であった。また清水氏、水谷女史は学習院大学学生時代に荒井先生の指導の元にシェイクスピア劇を演じたという経歴と、シェイクスピアに関係した仕事をされているということで、シェイクスピア職業人ともいうべき方たちである。

日本語版は元シェイクスピア・シアター座員のメンバーの同窓会のような構成で、蔀英二氏がアントーニオ、円道一弥氏が公爵、星和利氏がバッサーニオ、佐藤昇氏がシャイロックを演じ、ポーシャのみがシェイクスピア・シアターとは関係ない白井真木さんが演じた。日本語版は大場建治氏訳を使用。

円道一弥氏は、僕がシェイクスピア・シアターと初めて出会ったころ活躍されていたので、退団後のことが気になっていたのが実に久しぶりに拝見することができ、とても懐かしく思った。

英語劇の瀬沼達也氏のシャイロックと、プロの佐藤昇氏のシャイロックの競演は見ごたえのあるものであった。

英語版、日本語版ともに最後の場面に工夫がされており、それも新鮮な印象として残った。

シャイロックが退席を願って立ち去るところを、彼を残して他の全員が退場し彼一人が残り、英語版では「これが正義というものか」という意味の台詞を吐き、日本語版では「これがキリスト教徒のやり方か」と毒台詞を吐く、という新工夫がなされていた。

シェイクスピアの全曲を作曲した清水英之氏が演奏したシェイクスピア・ソングも、作曲者の人柄を感じさせるやさしさがあり、機会があれば全曲を聞いてみたいと思う。

シェイクスピアをこのような形で楽しむことができる喜びを味わうことのできた一夜であった。

英語朗読劇でシャイロックを演じた瀬沼達也氏との往復メールを観劇日記の補足とする。

 

―YSG座長瀬沼達也氏との往復メール―

<瀬沼達也様>

首都シェイクスピア祭『ヴェニスの商人』、英語版と日本語版、同じ場面を上演という趣向、大変興味深く観させていただきました。特に感激、感動したのは荒井先生の台詞でした。もう相当の年齢にもかかわらずハリのある力強い発声で、しかも単なる朗読に終わらず所作まで入ってくるという熱のこもったお声で、ただただ驚くばかりでした。瀬沼さんのシャイロックの熱演はもう改めて語るまでもないことですが、そのまま舞台にのせて演じても十分に通用するだけの完成度だと思います。

清水先生や水谷先生のお声も素晴らしく、台詞を楽しむことができました。またお二人のシェイクスピアの音楽も大変変素晴らしくまた是非お聞きしたいと思っています。

日本語版では、かつてのシェイクスピア・シアター座員による上演だけに、台詞力はさすがでした。中でも懐かしかったのは円道一弥さん。私がシェイクスピア・シアターの舞台を見始めたころシアターでご活躍されていたので、久しぶりにそのお声(せりふ)を聞くことができ、懐かしく思いました。星さんは劇団AUNやTSCの客演で今でもよく見ていますので、これもまた楽しませていただきました。佐藤昇さんのシャイロックは瀬沼さんとの比較でも興味あるものでした。英語版、日本語版ともに最後のシャイロックの台詞が、新しい趣向で寸劇としてのピリッとした味が効いており、よかったと思います。

シェイクスピアをこのような形で味わい楽しむことができるのを何よりのしあわせに感じています。

<瀬沼達也さんからのメール>  (2011.04.24)

荒井先生は今年喜寿と伺っております。お痩せにはなってますが、高木さんのおっしゃるとおり「ハリのある力強い発声でしかも単なる朗読に終わらず所作まで入ってくるという熱のこもったお声で、ただただ驚くばかりでした。」

>瀬沼さんのシャイロックの熱演はもう改めて語るまでもないことですが、そのまま舞台に>のせて演じても十分に通用するだけの完成度だと思います。高木さんにそのようにおっしゃっていただくと本当に嬉しいです。シャイロックの役作りと演技は、この芝居の全体の中でそのバランス感覚が特に大事な登場人物だと今回あらためて痛感しました。

>佐藤昇さんのシャイロックは瀬沼さんとの比較でも興味あるものでした。

シェイクスピア全戯曲へのキャスト出演経歴の佐藤さんと同じ戯曲の同じ場でしかも同じ人物を演じることができ、光栄でした。僕の気づかなかったセリフの隠れた意味を学べました。役作りの違い、解釈の相違を提示されたところもあり、考えさせられました。土曜日も同じメンバーで上演されたのですが、清水先生と僕のプログラム終了後の共通の感想は、英語朗読劇に刺激を受けられたのか、昨日より熱を感じたことでした。清水さんと僕は学生だったときに在学している大学が違ったので、シェイクスピア劇で競演できなかったことが残念だったと別れて、35年が経ちました。今回その夢が叶ったのは、二人がシェイクスピア著作の劇や詩に長年取り組んできたことへの、天のシェイクスピア大先生からのご褒美だったと思います。今回、荒井先生のご配慮で2日間、同じ旅館に泊まり寝食をともにして語り合えたことも、不思議でなりません。二人には戯曲『十二夜』の演出経験とサー・トービー役の演技経歴がある共通点から、相互にハゲまし合ってシェイクスピアご本人に似てきたのは偶然ではないような気がします。真夏の前のボトムズ・ドリームだったのでしょうか?(底抜けの笑い)

>日本語版では、かつてのシェイクスピア・シアター座員による上演だけに、台詞力はさすがでした。

さすが多く劇を観られる高木さんだけあってよくご存じですね。劇団AUNの星さんは今回直前まで劇団で「ヴェニスの商人」を上演されていたのですが、その星さんから僕がシャイロックの役作りをしっかりして朗読劇に臨んでいることを評価してくださったこと、と『十二夜』のことで僕ともっと話をしたかったと言ってくださり、本当に嬉しかったです。

>英語版、日本語版ともに最後のシャイロックの台詞が、新しい趣向で寸劇としてのピリッと>した味が効いており、よかったと思います。

21日(木)に日本語訳朗読劇をご覧になった荒井先生が、22日(金)の昼の直前リハーサルで最後にシャイロックが一人残り「これがクリチャンのやり方か!」の台詞を言うので、英語朗読劇の方も英語で同様にセリフとしてしゃべるかと提案されました。しかし、その日の夜の部の開演10分前に荒井先生がIs this the law? Where is justice? で行こうと言うので、アドリブであの最後を演じ、朗読した次第です。先生としては、僕がクリスチャンであることをご配慮してくださったのかもしれませんが、直接にはシェイクスピア作品の中にあるセリフを引用し、より普遍性のある台詞とすることをその選定基準にされました。

 

 

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