2011年の「シェイクスピア劇回顧」と「私が選んだベスト5」
●2011年のシェイクスピア劇回顧
『ヴェニスの商人』のオンパレード
今年のシェイクスピア劇の特徴としてまず目につくのが、翻案劇を含めて『ヴェニスの商人』の上演が多かったことである。
観劇順に列記すれば
1. |
4月、劇団AUNが吉田鋼太郎演出で自らシャイロックを演じる |
|
|
2. |
6月、劇団四季公演、浅利慶太演出で平幹二朗のシャイロック |
|
|
3. |
9月、SPCE U公演、綾乃木嵩之演出で大島宇三郎のシャイロック |
|
|
4. |
9月、東京演劇アンサンブル公演、アーノルド・ウェスカー作の『シャイロック』
また、4月には杉並シェイクスピア祭で『ヴェニスの商人―「法廷の場」』の日英語朗読劇が上演された。 |
|
|
そのほか、都合がつかず見ることができなかった作品に、ゴールデンウィークには、D-BOYSによる男優だけによる『ヴェニスの商人』(松岡和子訳、青木豪演出)、9月には翻案物で、落語家の立川志らく脚本・演出による『ヴェニスの商人~火焔太鼓の真実~』が、下町ダニーローズによって上演。なお、この上演は2007年に初演されたものの再演だというkとであるが、キャッチコピーによれば、SFヤクザファンタジーということで、見逃したのは残念である。
|
それでも『ハムレット』
芝居に困れば忠臣蔵。料理に困れば天ぷらだそうだが、シェイクスピアにつきものは、やはり『ハムレット』。
今年は前半に『ハムレット』が集中してあった。といっても自分が観たのは3つに過ぎないが。
2月に東京演劇アンサンブル公演の『ハムレット』は3人の俳優でハムレットを演じるという趣向で、サブタイトルに「デンマークの王子解体新書」と題したユニークな舞台であった。
3月には劇団東演公演、ベリャコーヴィッチ演出による『ハムレット』。これは東日本大震災の2日後、3月13日に観劇。チケットは完売していたが、震災の影響で2割ほどが空席となっていたのが印象的であった。
最後は翻案物で、福田善之作・演出による『夢、ハムレットの~陽炎篇~』で、Pカンパニー公演。これは15年ぶりの再演であるが、再演に当たって改稿され、初演では「シェイクスピア作、小田島雄志訳の悲劇による幻想」とサブタイトルが付されていたのが、今回は「陽炎篇」となっている。
さびしかった海外からの来日公演
かつて東京グローブ座や銀座セゾン劇場があった時には、毎年海外からのシェイクスピア劇を観ることができたが、年々海外からの来日公演が減っているのはさびしい限りである。
今年観た海外からの来日公演は、例年楽しみにしているITCL(インターナショナル・シアター・ロンドン)公演の『から騒ぎ』のみであった。
東日本大震災と福島原発の後遺症としては、5月に来日公演が予定されていたジョルジュ・ラヴォーダンの『テンペスト』の来日中止や、他にも影響があった。
●私の選んだ2011年のシェイクスピア劇ベスト5(観劇順)
1. |
串田和美潤色による『十二夜』(松岡和子訳、串田和美潤色・演出・美術・衣装)
身体は2つでも心は一つの両性具有のヴァイオラとセバスチャン。海難事故で二人は離ればなれになっても互いを求めあっている。しかし、二人がそれぞれ恋をすることで心身ともに分化され、自立していく。これまで気づかなかったことの新たな発見を楽しんだ。なかでも道化フェステを演じた笹野高史はこの舞台の出色であった。 |
|
|
2. |
東京シェイクスピア・カンパニー公演、『ハムレットーデンマークの王子解体新書―』(江戸馨による超訳・演出)
ハムレットという謎の人物を3人に解体することで、ハムレットが内面に矛盾した人物を抱合していることを視覚的に描出するが、そのことでハムレットの謎が解けたかというと、そうではないという逆説的な面白さがある。 |
|
|
3. |
劇団東演公演の『ハムレット』(ワレリ―・ベリャコーヴィッチによる翻案・演出・美術)
人生をまっしぐらに走った青年ハムレット(南保大樹)、凝縮された人生を生きたハムレットが新鮮であった。'To be, or not to be'の一連の独白が、レアティーズとの剣の試合を前にした、全く異なった場面で語られるのが意表を突く。 |
|
|
4. |
劇団AUN公演の『ヴェニスの商人』(吉田鋼太郎演出)
シャイロックの人物造形に過剰な解釈を感じさせないところがかえって新鮮。台詞力に魅了された。 |
|
|
5. |
彩の国シェイクスピア・シリーズ・第24弾、『アントニーとクレオパトラ』(蜷川幸雄演出)
これまで自分が観てきた<彩の国さいたま>の蜷川シェイクスピア・シリーズの中では、『ペリクリーズ』と『タイタス・アンドロニカス』に加えて、この『アントニーとクレオパトラ』が最も印象に残る舞台の一つに加えられる気がする。 |
|
|
●特別賞(観劇順)
1. |
杉並シェイクスピア祭2011・日英語朗読の夕べ
『ヴェニスの商人』の「法廷の場」を日英語による2バージョンの朗読劇を楽しんだ。英語版は、荒井良雄先生のバッサーニオ、清水英之氏の公爵、YSG座長の瀬沼達也氏がシャイロックを演じ、日本語版では、かつてのシェイクスピア・シアターのOBの集いを思わせるメンバーが参加し、なかでも円道一弥氏の健在が懐かしかった。 |
|
|
2. |
ふじのくに/せかい演劇祭2011、『真夏の夜の夢』(野田秀樹潤色、宮城聰演出)
「知られざる森」が燃える赤い情景は、3・11の東日本大震災の後では象徴的な意味合いを感じた。 |
|
|
3. |
秒速273㎞公演、『King of Shadows』(スーザン・クーパー原作、志藤裕輝脚本・演出・振付)
『夏の夜の夢』を劇中劇にした楽しい音楽劇で、出演者の若さが魅力。劇中の『夏の夜の夢』、『テンペスト』、『ソネット116番』の翻訳で、青山学院の学院生奥景子さんの訳が新鮮。 |
|
|
4. |
東京演劇アンサンブル公演」、『シャイロック』(アーノルド・ウェスカー作、竹中昌宏訳、入江洋祐演出)
初老のシャイロックとアントウニオの旧世代と、バッサーニオとロレンゾウに代表される若者の世代、この二つの世代の違いによる考え方の対立が興味深い。この劇団ならではの骨太さを感じさせた。 |
|
|
5. |
明治大学シェイクスピアプロジェクト公演、『冬物語』(コラプターズ翻訳、川名幸宏(文学部4年生)演出)
学生劇を超えた質の高い上演。 |
|
|
|