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  林蘭が九州弁で演じる 『ロミオとジュリエット』          No. 2009-019

 劇団AUNの林蘭さんが初ライブで、『ロミオとジュリエット』のバルコニー・シーンをご自分の出身地である久留米の九州弁で演じた。
 今年の8月に新装オープンしたというスタンドバー形式のライブハウス、Acoustic Live Bar Gran Certoで、歌と弾き語りを入れての熱演だった。
 熱演といっても、肩の力を抜いたソフトでアトホームな雰囲気の演技で、九州弁の口調が醸し出すコミカルさで笑いを呼びながらも、それでいて瞬発力のある演技で魅了してくれるものだった。
 林さんは舞台で演じるシェイクスピアがそもそも翻訳であり、それも標準語というフィルターにかけられた言葉での台詞のために、それを自分の中に取り込むのに距離を感じられるという。
 そのため台詞を自分の言葉として肉体化するのに、違和感のようなものを一旦解きほぐす必要があるという。そこで林さんが九州弁でシェイクスピアを演じたきっかけが面白い。
 林さんの祖母が亡くなられた時、火葬場に親族が集まった時、林さんが演劇をやっているということで、あんた何かやりなさいということになり、マクベス夫人が手紙を読むシーンを九州弁で演じたところこれがバカ受けしたという。それで四十九日の日にも同じようにやれと言われて再び九州弁の『マクベス』を演じたそうである。
 葬式の日にそんなことをやらせる親族も面白いが、それを臆せずにやり遂げる林さんも面白い。
 ライブハウスから話があった時に、シェイクスピアを九州弁で演じようと思いつかれたということであった。
 そのきっかけ話に身を乗り出して聞いていたら突然、ロミ・ジュリのバルコニー・シーンの台詞が始まった。
 かつて雑司ヶ谷のシェイクスピアを原書で読むグループの夏季合宿に林さんに参加してもらった時、『リチャード三世』のアンの演技を披露してもらったが、そのとき演技に入り込む時の彼女の瞬発力、集中力に魅せられ、圧倒された記憶がいまだに残っているが、今回もその一瞬の間に演技に没入する姿に思わず感嘆した。
 ローカルの言葉でシェイクスピアを演じるのは下館和巳氏が主宰するシェイクスピア・カンパニーがまず一番に頭に浮かぶが、東北弁は自分にとっては身近な言葉と言えないので、親近感のある土の香り(台詞が地に着いた)はしても、自分の言葉としての共有はできない。
 ところが九州弁となると自分の出身地であるだけに、林さんから発せられる台詞の一語一語が自分の体の中を肉となり血となって走り回り、興奮してやまなくなる。
 林さんは幼少の時からピアノを習い、歌は小学校の時から児童合唱団で歌ってきたというだけに歌唱力もあり、歌も楽しませてもらった。
 ライブ・バーはこじんまりとしていて30人も入れば溢れてしまうが、当日あいにくの雨の中だというのに、会場はいっぱいであった。
 これからも毎月ライブを続けられるということで、次回は11月に『ハムレット』をやられるということである。
 今度はどんなハムレットを演じてくれるか、また楽しみである。


10月9日(土)、自由が丘のLive Bar Gran Certoにて夜8時から約40分間のパーフォーマンス

 

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