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  インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン、第34回来日公演
                 『オセロー』             
No. 2009-011

 インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン(ITCL)の公演ほど、シンプルでスピード感あふれる劇はまれにしかお目にかかれない。
 明解で、さわやかで、何より楽しく見られる。
 今回の舞台の主眼はイアーゴにあると感じた。
 イアーゴの悪行の背景にある原因は薄弱である。
 イアーゴはオセローを破滅へと導いていくが、彼のその行為の根拠となるものは、オセローがイアーゴの妻エミリアと浮気をしたという思い込みと、彼の副官に自分でなくキャシオを選んだということぐらいしかない。
 彼がオセローを嫉妬の妄想に追い込んでいくそのプロセスは、メフィストフェレスの悪魔的所業に類似している。
 イアーゴはその面において悪魔であり、従って彼には罪の意識がない。
 イアーゴはその所業を楽しむだけである。
 そのイアーゴを演じるデヴィッド・チッテンデン(David Chittenden)が、悪魔的所業を楽しんでいる様子を実にうまく演じていて、見ていて憎めなくなるほどである。
 オセローは戦争の人であり、平和の統治者ではない。戦争の中でこそ彼の本領は発揮されるが、平和の中では慢心に溺れた心は隙だらけである。
 最後にオセローが、トルコ軍の脅威から解放され平和となったキプロスから呼び戻され、文人上がりのキャシオにとって変えられるのも、ヴェニスの統治者たちがオセローを平和時の統治者としては不適格と見通していたことを裏付けるものである。
 出演者では、ITCLの日本公演ではもうなじみ深いナタリア・キャンプベル(Natalia Campbell)が今回も、エミリア役や、色気たっぷりの娼婦ビアンカなどを好演し、目を楽しませてくれた。彼女は出てくるだけで楽しさを裏切らない貴重な存在だ。
 同じく来日常連のリチャード・エド(Richard Ede)がキャシオを演じ、リチャード・クロッドフェルター(Richard Clodfelter)がブラバンショーやロドヴィーコーを演じた。
 主演のオセローには黒人俳優のユージーン・ワシントン(Eugene Washington)、デズデモーナはホリ―・ヒントン(Holly Hinton)、ロダリーゴーをジョエル・サムズ(Joel Sams)が演じた。
 細かい点では、デズデモーナが歌う「柳の歌」は哀調感という点では違和感があった。
 森重久彌にならえば、台詞が歌うがごとく、歌は語るがごとくがベターであると感じた。
 つまりホリ―・ヒントンの「柳の歌」は歌を歌っている感じで、そこに哀切の情を感じさせなかったのが物足りなかったというのが自分の気持である。
 全体としての個人的評価としては、非常に楽しめるものであったということで、
 観劇評:★★★★


演出/ポール・ステッピングズ
5月17日(月)、早稲田大学大熊講堂

 

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