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  ASC第39回『ペリクリーズ』      No. 2010-007
 

アカデミック・シェイクスピア・カンパニー(ASC)の創立15周年記念公演の第一弾『ペリクリーズ』は、本公演ではなくリハーサルとして、主催者彩乃木崇之の独自演劇論“ニューフィクション”メソッドの実践の場としているのが今回の特徴であろう。

出演者7名がこのリハーサル中すべての役に挑戦して演じ、その究極の目標は、将来、演目と配役を当日の観客の要望に応えて決定することにあるという。

上演場所は、リハーサル=試演にふさわしく(?)、JR川崎駅直結のミューザ川崎シンフォニーホールの音楽工房。何もない空間はミニ体育館のようなスペースである。

観客席はパイプ椅子を壁際に3列並べて、総勢でも30名程度の席。

反対側にはブルーのテーブルが、同じように壁際に並べられている。

観客席の最前列は子ども席の張り紙が置かれているが、この日は二組だけの親子。

この子ども席は、彩乃木崇之のもう一つの主張である「いま子どもたちに対してできること。そのための大人の変革」の表象でもあるだろう。

ASCの上演でいつも見慣れた顔ぶれが見当たらないのも珍しい現象だった。

舞台は自然発生的に始まる。

コンビニの前でたむろしているような若い男女が、何やら相談でもしているような風情でかたまっている。

ひとりが『ペリクリーズ』のプロローグであ、ガワ―の台詞を語り始め、その後全員が台詞をつないで語っていく。

主役のペリクリーズ役も場面ごとに演じる俳優が変わり、それも自然発生的な変わり方で違和感もない。

今回の公演では戸谷昌弘などASCの常連の客演もなく若手中心の舞台であったが、それだけにフレッシュな感じがした。一年ぶりに会う秋山祐司君、真鍋良彦君の成長も著しく、頼もしくなって今後が楽しみ。

昨年ASC公演『ヴェニスの商人』でロレンゾーを演じた劇団AUNのメンバーでもある福岡幹之君が今回も参加。

要所々々は御大将の彩乃木崇之の演技でメリハリをつけていたが、若返ったASCの中ではもう中堅となった日野聡子が舞台の中心となり、核となって主要な役をすべて演じた。

彩乃木崇之の"ニューフィクション“メソッドの公演としては、昨年の『ヴェニスの商人』に続く第2回目の公演であるが、今回はその手法をより実験的にした実践であり、そのことが今回の公演をリハーサルとした所以でもあるのだろう。

その意味でも、今回は一つの通過点であり、今後の進路が究極の目標に向かってどのように展開されるのか、まさにペリクリーズの冒険であり、前途は多難でもあるだろう。

『ペリクリーズ』は、彩乃木崇之のニューメソッドの船出にふさわしい象徴的な選択であったとように思う。

 

(4月10日(土)昼、ミューザ川崎シンフォニーホール・音楽工房にて観劇)

 

 

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