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  江戸馨企画 十人十色のシェイクスピア (その1)      No. 2010-006
 

〜 『60分で旅するハムレット/ヴェニスの商人(朗読)』 

第7回杉並演劇祭参加作品として、東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)主宰の江戸馨さんによる企画で、それぞれわずか1日ずつですが、とてもユニークな4つのシェイクスピアが上演されています。

「遊空間がざびぃ」としては、昨年4月のがざびぃ芝居月特別企画、<それぞれのシェイクスピア>に続くシェイクスピア特集となります。

第一弾は一人でシェイクスピア全作品上演を目指している楠美津香さんの『超訳ハムレット』(3月16日)、第二弾が横浜シェイクスピア・グループ(YSG)による『60分で旅するハムレット・ヴェニスの商人(朗読)』(3月22日)、第三弾がコラボレーションライブと銘打って『恋せよ乙女』(、3月23日、出演/近藤佑子、土屋咲登子)、そして最終がTSCによる『朗読劇・ハムレット』(3月30日)となっています。

今回は、娘の出産が目前というプライヴェィトな理由もあって、残念ながらYSGの公演とTSCの公演だけの観劇となります(TSCの公演は来週観劇予定)。

江戸馨さんの企画の意図を探ろうと思えばこの四つの公演を全体的に見る必要があろうかと思うのですが、またそのことができないのがとても残念なのでしたが、せっかくの御馳走をそのままにしておくのももったいないので、やはり自分の中の記録として残しておこうと思うのです。

 

YSGの『60分で旅するハムレット』は、昨年7月に、横浜のエリスマン邸で上演されたものの再演で、『ヴェニスの商人』(朗読)は、2007年1月に横浜の馬車道・大津ギャラリーで公演した朗読劇をよりドラマティックに仕立てなおしたものでした。(自分の記憶の頼りなさに絶望したくなるのは、この『ヴェニスの商人』も昨年の『ハムレット』と同じ時に上演されたと思い込んでいたことでした)

YSG座長の瀬沼達也さんの挨拶の言葉に、今回の江戸馨さんの企画に参加することに当たって、二重三重の記念すべきことがありました。

一つは杉並演劇祭が7回目を迎えるのと同じく、YSGにとっても第7回目の公演になるということ、そして今年がYSG設立10年目になるという一つの節目に、今回初めて東京での上演となるということでした。(今回企画されたTSCも、最近では活動の場を広げて横浜にも進出して朗読劇を上演しており、シェイクスピアの交流の輪がこのような形で広がっていくことをとても喜ばしく思っています。)

『60分で旅するハムレット』では、昨年の登場人物のキャスティングを比較すると、ハムレット(瀬沼恵美)、亡霊(瀬沼達也)、ガートルード(小嶋しのぶ)が同じで、クローディアスは増留俊樹から佐藤正弥に、レアティーズが佐藤正弥から細貝康太に、ホレイショーとストーリーテラーが小池智也から劇団葡萄座の遠藤敬介に変わっていました。

ハムレットを演じた瀬沼恵美さんは、昨年は初めての大役ということもあって、台詞も早く、間合いもなく突っ走ってしまったところがありましたが、今回、多少のつまずきがないではありませんでしたが、見る方も二度目のせいか安心して見られました。これからも何度も演じ続けて、自分のものにしてほしいと思います。

前半の『ハムレット』に対して、後半の『ヴェニスの商人』朗読(劇)は、YSGにとってはこちらの方が上演時間の長さからも主役に見えました。

今回の企画はシェイクスピア十人十色となっていますが、演目は『ハムレット』に焦点がある企画(?)ということで、YSGの『ハムレット』はついでに組み込まれたと思えるほど、比重が『ヴェニスの商人』にあったように思えました。

2007年上演の朗読劇から、今回はほとんど立ち稽古から本番に入る準備のような上演でした。

シャイロックを演じた瀬沼達也さんは、朗読劇を超えて演技の世界に入っていました。

前回の朗読劇ではシャイロックを悲劇的、喜劇的に演じ分ける試みをしていましたが、今回はその悲劇的シャイロックに軽身を加えて、人物像に深みをもたせ、役を楽しんでいるのが見てとれました。

悲劇は喜劇的要素によってその悲劇性が高まり、またその逆に喜劇は悲劇的様相においてその喜劇性が増しますが、瀬沼氏のシャイロックにはまさにそのような醍醐味がありました。

アントーニオの佐藤正弥、ポーシャの小嶋しのぶ、シャイロックの瀬沼達也以外は、キャストは入れ替わり、ネリッサが池上由紀子に変わって前半にハムレットを演じた瀬沼恵美、バッサーニオは小池智也から三井淳平、公爵とナレーションは佐々木隆行から遠藤敬介、グラシアーノが増留俊樹から細貝康太に変わっていました。

三井淳平君はこれまで関東学院大学のシェイクスピア劇でなじんでいたので、なんとなくほほえましく見させてもらいました。

シャイロックの演技を別格とすれば、細貝康太君のグラシアーノは、台詞のメリハリもあり、演技も楽しんでおり、期待するところ大でした。YSGに今後とも若さの新風を大いに送りこんで欲しいものだと思います。(もちろんベテランの活躍があってのことですが)

今回『ハムレット』の企画にあえてこの『ヴェニスの商人』を持ち込んだということは、座長の瀬沼氏に相当な思い入れがあると思えましたが、前回の朗読から今回の立ち稽古に近い朗読劇へと進展してきた過程を見るとき、次は是非、YSGの舞台としての『ヴェニスの商人』を見たいものだと思いました。(3月23日、記)

 

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