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  東京シェイクスピア・カンパニー20周年記念公演 『十二夜』      No. 2010-003
 

劇を見終わった時、至福の気持でいっぱいになることがある。

そんなときほど幸せなことはないと思うのだが、今回、東京シェイクスピア・カンパニー(TSC)の『十二夜』がまさにその喜びをかみしめるものだった。

これまでにも何度となく見てきて筋も何もかも分かっていても、湧き出てくる感動で新たな悦びに満ち溢れる。

ただ不思議なことに、時が過ぎてみるとその感激も忘れてしまい、何も残っていないことも多い。

演劇は一過性のものだし、それはそれでもいいのだと思う。

同じTSCの公演で『ペリクリーズ』を以前見た時、不満の方が大きかったような気がするのだが、今になってみると印象度は高く、惜しいことをしたと思ったりもしている。(牧野くみこのガワ―の印象が強く残っている)

演劇の印象ということで振り返ってみる時、記憶に残る『十二夜』の上演を思い浮かべると、村上博(俳優座公演)の物憂いオーシーノ公爵、平幹二朗(幹の会公演)のマルボーリオや佐古正人(幹の会公演)のサー・トービーがとっさに浮かんでくる。(不思議とヴァイオラやオリビアは思い出せない)

10年後、今回感動したTSCの登場人物が記憶にどのように残っているかも楽しみである。

それだけに今回の劇の感想をしっかりと書き留めておきたいと思っているのに、感動のあまりほめ言葉が先行してしまったが、まずはTSC20周年を祝いたい。

『十二夜』は祝祭劇であり、TSCの記念公演にふさわしい上演でもあると思った。

舞台装置(「青年団」の濱崎賢二による)は、イスラム建築を思わせるホワイトカラーの回廊とアーケードが、明るい地中海沿岸を思わせ、すでにファンタジックな気持ちへと誘い込む。

恋の憂愁に沈むオーシーノ公爵(かなやたけゆき)の登場は、僕の印象に残る村上博のオーシーノ(長椅子に寝そべっていたと記憶している)とは異なり、舞台中央に進み出てきて、オリビアへの報われぬ恋の嘆きを真正面に語るが、ここでまず僕の胸はビビンと高まって引き込まれ、舞台に導入されたのだった。

登場人物のアンサンブルが実に妙を得たキャスティングで、見ていて楽しかった。

ヴァイオラは、可憐な感じの藤井由樹が好演し、いい加減なところがあってかつ苦みのきいた陽性タイプの原元太仁がサー・トービー、コミカルでちょっと悪魔的な茶目っ気を発揮するつかさまりが侍女のマライア(TSCでは彼女がマライアを演じなくて誰が演じるというほど当て役といえる)、苦みと渋みを感じさせる紺野相龍がマルボーリオ演じ、道化のフェステを演じる齊藤崇也はその演技だけでなく、歌(声)を楽しませてくれるなど、多彩な顔ぶれであった。

今回最も注意を引いたのは、オリビアを演じるTSC看板女優、牧野くみこ。

もともとこの人の演技は憎いほどうまいところがあるのだが、年齢を感じさせない(失礼!)若々しさとみずみずしさが出ていて、それでいてどこか一本芯の抜けた茶目なところを演じて、愛らしさがあり、そこが魅力となっている。完全無欠でないところがいい。

TSC公演は、シェイクスピア作品の登場人物の「その後」を描いたオリジナル作品が面白く、いつも楽しみにしているが、今回はシェイクスピアを直球ストレートで楽しませてくれた。

(翻訳・演出・製作総指揮/江戸馨、2月19日(金)昼、神楽坂のシアター・イワトにて観劇)

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