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  東京シェイクスピア・カンパニー公演 『マクベス裁判』       No. 2009-029

 魔女たちの作業は、地獄に落ちたシジフォスの作業にも似た虚しい繰り返しでしかない。
 地獄の壁が崩れ落ちるのは、マクベスが原因。
 地獄は地上で犯した罪の責め苦に苦しめられる場所であるのに、マクベスはその地獄を陽気で楽しい世界に変えてしまった。
 マクベスは毎日自分の体を666回切り刻む刑罰を科されているのに、それをむしろ楽しんでいる様子である。
 地獄の権威が失墜することを恐れるメフィストフェレスが、マクベスの裁判の再審を請求して彼を地獄から追放し天国に送り込もうとするが、悪魔ベルゼベルと意見が衝突する。
 マクベスとマクベス夫人にはマミリアスという男の子がいて、その子は10歳の時事故で亡くなった。
 マクベスと結婚する前ダンカン王の宮廷の侍女だったマクベス夫人は、マクベスがマミリアスを自分の子ではないと疑って事故を装って殺したと思っており、二人の間には深い溝ができ、反目し合っているのだった。
 天国にいるマミリアスに会いたいと思っているマクベス夫人は、マクベスが天国に追放されることを聞きつけ、自分が天国に行くために悪魔のベルゼベルの姦計に乗せられ、マクベスに両眼をつぶすことを求める。
 ベルゼベルはマミリアスの死の原因について、魔女たちに幻影を演じさせる。
 最初に、マクベスの部下シートンに扮した魔女が登場し、マミリアスの死が間違いなく事故であったと証言する。
 続いて、天国に送られるマクベスの代わりに地獄の人数の数合わせのために送り込まれたと言って別の魔女がマミリアスに扮して登場する。
 ベルゼベルにそのマミリアスの目を抉るように命じられたマクベスは、命令に逆らえずマミリアスを傷つける行為を繰り返すが、地獄の悪魔たちはそのマクベスの行為を見て、人間とは自分の運命に慣らされる不可思議な存在だと思わされるのだった。
 マミリアスの死については、事実は二転三転して、マクベス夫人こそはその当事者であったことが明らかにされる。マクベス夫人は、マミリアスはダンカンの子であり、マクベスにほかに子どもがいないのは、彼女が王家(ダンカン)の血筋以外の子どもはいらないと、マクベスの子種を絶ったことを告白する。
 地獄の秩序は崩壊し、壁が崩れ落ち始め、悪魔とメフィストフェレスはマクベスを地獄から追い出しにかかる。
 地獄の門の前で悪魔はマクベスに問う。壁の向こうには何があるのかと。誰もそれを見た者はいない。
 マクベスは思う、壁の向こうには広い野原が広がっている、と。
 『マクベス裁判』は6年前の2003年にも見ていてその時にも観劇日記をつけているのだが、今回あえてそれを見ないまま、新たにその印象を綴ってみた。
 キャストも変わっているが、それも前回と比較して見直すことを差し控えて、初めて見るつもりで見た。
壁の崩壊と、壁の向こうの広い野原については劇を見ていて思い出した。
 メフィストフェレスを演じる牧野くみこがうまいと思った。
 マクベスは原元太仁、マクベス夫人はつかさまり、マミリアスとマクベス夫人の侍女役に榛葉夏江、悪魔ベルゼベルは高木薫、三人の魔女には、大須賀隼人、齊藤嵩也、関野三幸が演じた。

 

作/奥泉光、演出/江戸薫
9月28日(月)昼、笹塚ファクトリー

 

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