大変なチョンボをしてしまい、プロペラ来日公演の『ヴェニスの商人』のチケットの引き取り期間を勘違いして、そのことを当日になって気づき、結局見逃してしまった。
今回『夏の夜の夢』を見て、これは『ヴェニスの商人』と対にして見るべきではなかろうかという思いを強くした。
それはさておき、プロペラの『夏の夜の夢』は、一口にいって、刺激的なものであった。
特徴としては、劇団そのものが男優のみで構成されているという性格上、この劇も当然のことながら男優のみで演じられるということと、ピーター・ブルックの演出以来なかば常識化したシーシュースとオーベロン、ヒポリタとタイテーニアをそれぞれ同一人物が演じるという方式を改め、別々に演じているという点であろう。
舞台美術は、舞台前方の空間を除いて、三方が白いレース状なもので囲われている。
それが照明によって、宮邸の室内のようにも見え、うっそうとした森の中にいるようにも見えて、シンプルな中にも複雑性を内包している。
開場時は幕が下りていて舞台の状態も分からないが、開演15分前ごろに幕が上がって、舞台の状態が見えるようになる。
舞台中央には、ちょうど人が一人入れるほどの大きさで、上部がピラミッド型になっている箱状のものが据えられている。
白いタイツ姿の役者が舞台に三々五々登場し、舞台の脇や、ピラミッドの箱の傍や、ホリゾントの方で、思い思いのポーズでくつろいだ格好をして、舞台の風景の中に溶け込むようにしている。
それは、舞台の緊張を解きほぐすかのようでもある。
開演とともに、ピラミッド・ボックスはマジックボックスのようにはじけ、中からバレーの衣裳をつけたパックが躍り出て、四方に解体された箱はそのまま床と一体化する。
白いタイツ姿の役者は、舞台が始まるとそれぞれの衣裳を身につける。
すらっとした長身のシーシュース公に対して、ヒポリタは肉太な黒人が演じる。
妖精の王オーベロンはがっちりとした体格の俳優、タイテーニアはほっそりした男優が演じ、その意識的とも思われる二重の対照が面白い。
今回の舞台で強く感じられたことの一つは、「見られている」という感覚。
森の中で繰り広げられる4人の若者たちの狂騒劇を、オーベロンはホリゾントのギャラリーで寝そべって眺め、パックは上手前方に座り込んで見学としゃれこむ。
オーベロンとパックが並んで見物しているのではなく、一方は高みの見物、もう一方は脇からの見物で、挟み込むような見物で、それを見て、すごく「見られている」という意識が募るのだった。
『ヴェニスの商人』と対にして見るべきではないかと思ったのは、二つの作品のキャステイングの面白さを感じたからでもある。
ボトムを演じるひときわ長身で体格の良いボブ・バレットは、『ヴェニスの商人』でアントーニオを演じ、やはり大柄のリチャード・クロシェーがオーベロンとシャイロックを演じているというように、登場人物を演じる役者の対比をし ながら見るのも面白そうな気がした。
『ヴェニスの商人』を見逃して残念だったのは、野田学による公演に先立つプレ・レクチャーで、この作品の舞台が監獄の中の設定になっているという映像による説明があり、その異質な演出に興味があった、というか、そのことに対する違和感、反感をどのように解き明かしてくれるだろうかということを期待していたからでもあった。
しかし、この『夏の夜の夢』を見ただけでも、その期待に答えるものがあったことでよしとしたい。
演出/エドワード・ホール
7月11日(土)19時開演、東京芸術劇場・中ホール、チケット:(S席)6500円、座席:1階H列30番
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