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  横浜シェイクスピア・グローブ(YSG)第6回公演 
            英語劇 『60分で旅するHamlet』        
No. 2009-020

 YSG(横浜シェイクスピア・グループ)が横浜開港150周年を記念して、原語上演での本邦初公演の『ハムレット』を取り上げ、なんとそれを60分にまとめて上演した。
 関東学院大学文学部の福圓容子准教授を迎えて30分のレクチャーに始まり、その後「60分で旅するHamlet 」と題してのパフォーマンス、20分の休憩をはさんで聴衆参加型のアフタートーク、そしてスケジュール外で、座長瀬沼達也のトークとハムレットの第4独白「尼寺の場」のパフォーマンスと盛り沢山の内容であった。
 福圓准教授のレクチャーは、シェイクスピアは実体験、自分の経験を通して劇を書いた節があるということを本日上演の『ハムレット』に関連させて簡潔に要領よく説明され、シェイクスピア劇の初心者にもわかりやすい興味ある内容であったと思う。
 パフォーマンスは、病気上がりの座長瀬沼達也に代わって、佐藤正弥が座長代理を務めて企画演出。
 ハムレットの第1、第2、第4、第6独白場面を軸にして全部で8つの場面を、ホレイショーが劇の語り部として進行させていく趣向で、全体の4分の3がハムレットの台詞で占められている。
 劇の冒頭は、ホレイショー(小池智也)を残して、ハムレット(瀬沼恵美)、クローディアス(増留俊樹)、レアティーズ(佐藤正弥)、ガートルード(小嶋しのぶ)の全員が死んでいる静止場面。
 当然劇の終わりも同じ形態を取るので、ここはなじみの円環手法となっている。
 語り部としてのホレイショーの日本語による説明で、各場面のつながりもよくわかり、60分に凝縮されたストーリーの展開も理解しやすくなっている。
 おそらく初めての主役であり、しかもハムレットという大役を演じる瀬沼恵美の演技と台詞がフレッシュで瑞々しい。
 アフタートークの本人の弁で、役の重圧もあって台詞をかなり早くしゃべってしまい、台詞の一部を飛ばした個所もあった釈明していたが、確かに劇の進行中では台詞の間合いに乏しいものを感じた面もあるが、面白いことに、彼女の父であり師匠でもある座長がアフタートークの後、尼寺の場面のハムレットとオフィーリアの二役を演じたうまさと比較したとき、彼女の瑞々しさが逆に印象的に思えてきたのだった。
 台詞と演技の説得力、うまさという点では格段の差があるのに、劇というものの面白さがこんなところにもあるという一つの発見でもあった。
 この上演の最大の目玉は、この親娘の共演であろう。
 ハムレットを娘が演じ、ハムレットの亡霊を父親が演じるというのは、おそらくかつてない快挙であろう。
 亡霊を演じた瀬沼達也氏は、病み上がりとは思えない台詞力で、その台詞に、ただただ聞き惚れた。
 アフタートークで、<シェイクスピアの森・町田グループ>の代表である新納たも子さんが、ガートルードがオフィーリアの水死を告げる場面で、'drowned'が原文では2度しか言われないのに3度言っていたと指摘されたことに驚かされ、細かいことにまで気づかれていることに感心させられた。
 同じく新納さんが指摘されたことであるが、芝居の場(3幕2場)、役者の劇中劇で、王役(増留)が毒薬を飲んで死ぬ場面で、『ロミオとジュリエット』の中のロミオの台詞、'O true apothecary! Thy drugs are quick'を喋らせるという遊びも加えるという心憎い演出がされている。
 佐藤正弥氏はその裏話として、ハムレットの芝居論の台詞である'Suit the action to the word, the word to the action'というのが好きだというような説明を加えられていたが、アフタートークならではの話として興味深かった。
 3時間半の時間があっという間に和やかな気分のうちに過ぎ去った。
 YSGの活動としてはこのようなパフォーマンス形式と、ドラマティック・リーディングと称しての朗読活動があるが、パフォーマンス形式はいうなればクロッキーで、ドラマティック・リーディングはデッサンではないかと思う。
 次回はYSG10周年を記念しての企画が期待される。
 

7月4日(土)、横浜市元町、エリスマン亭

 

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