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  『赤い城 黒い砂』      No. 2009-013
 

〜『二人の貴公子』翻案〜

シェイクスピア(フレッチャーとの共作)の『二人の貴公子』を、蓬莱竜太が原作よりすっきりした形で翻案。

原作ではヒポリタとテーセウスが登場して、『夏の夜の夢』を思わせるような始まりを見せる。

原作の前口上の登場にかわって、武器商人モト(中嶋しゅう)がプロローグとして、子どもの自分に財布を拾って警察に届け先生に褒められたエピソードを語る。

財布を警察に届けたのは、拾ったものを自分のものとしていいのだということを知らなかっただけで、自分の級友が同じように財布を拾って自分のものとしたが、運悪くそのことがばれて先生に叱られ、一日中自分の机の横に立たされたが、自分がもし拾った物を自分のものとしてよいと知っていたら、自分だってそれを届けなかっただろう、知らないことは罪なのだと語る。

赤い国の王クジャ(中山仁)赤い国と黒い国の戦闘場面が所狭しと繰り広げられる。

赤い国と黒い国は長年にわたって戦いを繰り返してきた。

赤い国は、アマゾネスを思わせる女戦闘士の王女ナジャ(黒木メイサ)が全軍を指揮している。

一方の黒い国には二人の黒い獅子と呼ばれる騎士カタリ(中村獅童)とジンク(片岡愛之助)がいる。

戦いの形勢は一転二転し、カタリとナジャの一騎打ちとなるが、勝負のつかないうちに、武器商人モトが赤い国の王に売った新兵器によって戦局は一挙に片が付き、赤い国の勝利となる。

黒い国の騎士カタリとジンクは傷ついて赤い国の捕虜となり、地下牢に閉じ込められる。

カタリは動物的、野性的性格で戦いの血に飢えているが、彼が思う存分に働けるのは自分の後方には常に沈着冷静なジンクがいるから安心して戦えるのだった。

しかし、ジンクはそのようなカタリの影のような存在に実はうんざりしているだけでなくそのことを恨んでさえいる。

やがてどういうわけか、ジンクだけが許されて牢を出て赤い国から追放されるが、帰るあてのないジンクは王女ナジャの親衛隊募集の試合で、名前をアルルと変えて参加し、見事に勝利をおさめ親衛隊長の地位を得る。

ジンクは二度と赤い国に戻ってはならないと追放された身分であり、もし自分が黒い国の騎士ジンクであることがばれると処刑は免れないため、自分のことを知っている唯一の人物カタリを処刑へと導く。

しかし、カタリは牢番(田口守)の娘ココ(南沢奈央)によって牢を抜け出すが、それまで地上に出たことのないココは、地上に出たとたんに目がくらみ、そのまま失明してしまう。

カタリを追跡するジンクは部下に彼を殺せと命じる。

目をあけることが出来ないカタリは、その声で親衛隊長のアルルがジンクであると分かるが、ジンクはそれを否定し、彼を追い詰め傷を負わせるが、カタリは崖から川へと身を投げて逃亡する。

ジンクは王女ナジャの腹違いの姉カイナ(馬淵英俚可)に愛されているが、赤い国の国王の地位を狙っているジンクはナジャとの結婚を望んでいる。

ジンクには自分にとっての真実があっても、他人に対する誠がない人物として描かれていて、いやな人間としての人物造型が原作より鮮明な感じがする。

ジンクは言うなれば、『リア王』のエドマンドのような人物である。

一方傷を負って右腕を失ったカタリは、今は盗賊の頭となって、赤い国の交易の妨害している。

国王クジャは、王女ナジャとの結婚の条件としてジンクに盗賊退治を命じる。

それもわずか2名の部下を連れて。その部下となる兵士というのが、死刑囚である囚人で武器の扱いも知らない。

盗賊の頭となったカタリは、今ではジンクに復讐することだけを考えている。

窮地に陥ったジンクを、親衛隊を引き連れてきたナジャが救い出す。

赤い国の新兵器に対抗するために、カタリは武器商人モトから新兵器を買い求め、赤い国はそのため一挙に不利な形勢となる。

そして兵士にもてあそばれた牢番の娘ココの恨みで、赤い国の兵士たちは次々と疫病で倒れていく。

自分の死を前にして国王クジャが語る。

この国は豊かに栄えても人口は増えることがなかった、それはいつも豊かになると疫病や何かで人が死んでいくからだと。

赤い国の城に乗り込んできたカタリはナジャにジンクの正体を暴露する。

ジンクは自分の王女に対する気持は真実であると、その身の証をたてるべく剣で自ら腹を刺す。

カタリのナジャに対する気持は、彼女との戦いの血に飢えるという動物的感覚の変則的とも言うべき愛情である。

そして二人は戦うが、ナジャの危ういところで、死んだ思ったジンクがピストルでカタリを撃つ。

カタリが死を前にして思ったことは、やはり自分はジンクを兄弟として愛しているのだった、と。

赤い国と黒い国の戦いが終わったと思ったところに、青い国が大軍をもって攻めてきたという知らせが入ってくる。

ナジャは、赤い国の女王として、国民に告げる。

この国を捨ててどこかへ逃亡しても苦難を逃れることはできない、自分は今こそこの国のため国民と苦難をともにして戦うつもりであると決意を述べる。

このナジャの台詞は『リア王』の最後、オールバニー公爵のセリフである、「この悲しい時代の重荷に耐えていくほかあるまい...若いわれわれにはこれほどの苦しみ、たえてあるまい」に重なって聞こえるのだった。

青い国との戦いの跡を表象するかのように、廃墟の跡を示す舞台にはバックに青い垂れ幕が一面に。

その垂れ幕の下手側上方には、戦いの傷跡を示すような大きな破れた穴があいているのが象徴的であった。

 

全体の印象では、新兵器である大量殺戮兵器などの登場は、人間の文明批判を感じさせた。

衣裳、舞台装置、役者、とスケールのある、見せる舞台であった。

上演時間は途中20分の休憩をはさんで3時間。

(作/蓬莱竜太、演出/栗山民也、美術/松井るみ、衣裳/前田文子、4月17日(金)夜、
日生劇場にて観劇)

 

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