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  あなざーわーくす公演 『ヴェニスの商人』      No.2009-012
 

〜がざびぃ芝居月、それぞれのシェイクスピア第二弾 「逆襲のシャイロック」 〜

がざびぃ芝居月のシェイクスピア競演第二弾のあなざーわーくす公演は、シェイクスピアも驚くこれはもう「俺のではない」と言わしめる、まったく別の作品といってもいいものだった。

作・演出担当のわたなべなおこさんが司会を務める、この日のゲスト岩井秀人君(ハイバイ主宰)を招いてのビフォアトークで、『ヴェニスの商人』の概要説明を聞いていても、内容に焦点がなく要領を得ないもので、これから始まる本番はどうなるのかちょっと心配させるようなものであった。

『ヴェニスの商人』の骨格である「箱選び」、「人肉裁判」、「指輪」の3つの話が整理されて触れられていないので、原作を全く知らない者にとっては、どういう話であるのかつかめないものであった。

つまりこれはもうシェイクスピアとして見ていたのではいたたまれない内容なのだが、このグループの名称である「あなざーわーくす」、すなわち、シェイクスピアとは別の作品である、と思って見なければならないものであった。

ビフォアトークでもそうであったが、アフタートークでも、主宰者のわたなべさんの話を聞いていると、この人は『ヴェニスの商人』をどこまで理解しているのだろうかと疑問になるくらいなのだが、それでいてあなざーわーくす版『ヴェニスの商人〜逆襲のシャイロック〜』には、シャイロックの妻リアが登場したりしてきて、おやっと思わせる不思議さをもったキラリとしたところもあるのだった。

原作では、シャイロックの妻リアは劇中登場してくることはなく、彼の娘であるジェシカが恋人のロレンゾーと駆け落ちした時に持ち出したシャイロックの結婚指輪の話の中で、ほんの一度だけ出てくる名前でしかない。

あなざーわーくす版では、シャイロックは両親に早く死なれ、孤児院でユダヤ人として周りから苛められて育つ。

やがてシャイロックはマグロ中買いの不当な横流し商売で財をなし、リアと出会って彼女と結婚したという物語に創作される。

そのリアは父親が泥棒を働いたために、彼女は犯罪者の子どもとして「罪」の焼印を腕に押されているのだった。

アントーニオとバッサーニオ、ポーシャなど登場人物もすべてデフォルメされているだけでなく、出演者が場面ごとにその役柄を入れ変わっていくという趣向。

だが、このあなざーわくすの一番の特徴は、観客参加型の上演形式である。

特定の舞台設定はなく、観客はフロアの中心の一間四方サイズの枠を囲んで座り込んで、その枠の中で演じられる劇を見る。

この形式は観客との空気がうまく通わなければ悲惨なものになる。

アフタートークでは、面白い体験談として、カナダで海外公演をした時に、開演早々に出演者がちょっとトイレに、と言うと観客の一人が自分もと続いて出て行って慌てたことがあるという。

出演者のそれは演技の一つであったのだが、観客がそれと知らずについて行き、もっとあわてさせたのはその観客にさらに数名が続いてトイレに出ていこうとしたのであわてて止めたということである。

また幼稚園児の前での公演では、シャボン玉を吹く実演の場面があって、子どもたちがそのシャボン玉をつかまえようと出演者の周りに一斉に押し寄せてきたため、その公演はその場でおしまいになってしまった話などという、思わぬハップニングなどの話はそれなりに面白いものであった。

さて、自分はこの舞台の空気にどこまでなじみ、溶け込むことができただろうか?!

シェイクスピアを離れて、新たな体験として、「演劇とは?」を考えさせるものであった。

 

(作・演出/わたなべ なおこ、4月16日(木)夜、西荻窪・遊空間がざびぃにて観劇)

 

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