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  ガザビ公演 『さくらどき、銭のよのなか』      No. 2009-011
 

〜 がざびぃ芝居月 2009、それぞれのシェイクスピア第一弾 〜


シェイクスピア上演の嚆矢とされる歌舞伎狂言『何桜彼桜銭世中(さくらどきぜにのよのなか)』が上演されたのは、明治18年(1885年)。

遊空間がざびぃが設立5周年記念を祝して、恒例のがざびぃ芝居月に3劇団によるシェイクスピアの『ヴェニスの商人』の競演を取り上げた。

その第一弾である『さくらどき、銭のよのなか』のタイトルは、その嚆矢を飾るにふさわしい趣向に思えた。

舞台は人肉裁判で、ポーシャがシャイロックに判決を言い渡す場面から始まる。

シャイロックは、キリスト教徒への改宗と財産没収の判決を終始無言で受け止めている。

シャイロックを演じるカミムラシゲルは、苦悶と憎悪に歪んだ表情で、無言の台詞を語る。

話の展開はモザイク模様に解体されてはいるが、『ヴェニスの商人』の3つのプロット、「箱選び」、「人肉裁判」、「指輪」をめぐるエピソードはきっちりと収められている。 

ミカン船で一財産築いた紀伊国屋の二代目、バッサーニオが遊蕩三昧で財産を食いつぶしてしまう。

バッサーニオはパーティで知り合った資産家の越後屋の跡取り娘、ポーシャとの結婚を目論む。

バッサーニオ、ポーシャ、侍女のネリッサ、アントニオなどの登場人物はカリカチュア化され、デフォルメされていて、喜劇的要素が強くなっている。

バッサーニオは軽薄そのものの人物、自分のことだけしか考えない、人の痛みなど全く省みることもないジコチューの人間として描かれる。

アントニオがバッサーニオのためにシャイロックから借りた三千両の金が、持ち船全部が難破して無一文となって返せなくなり、裁判でその肉を切られることになっても、ポーシャから促されるまで駆けつけようともしない。

果ては、そんな証文を交わす方が悪いと言うような始末。

そんなバッサーニオに恋するポーシャも知性的とは言えない軽くて、おきゃんな人物に造形されている。

人肉裁判でも、肉を切っても血は流してはならない、また髪の毛1本の重さも狂ってはならないという例の逆転の判決も、彼女が気づくのではなく、メッセンジャーによってもたらされた手紙に救われてのことである。

アラゴン王の箱選びでは時事的な社会風刺の遊びが加えられる。

ネリッサが小沢一郎に扮して例の献金問題、北朝鮮のミサイル発射問題などがコミカルに話題される。

アントニオの憂鬱は単純化されて、彼の全財産を投資した持ち船の難破により無一文となった境遇を嘆き、生きているより証文通りシャイロックに殺されることを切望する。

バッサーニオとの関係も微妙である。

バッサーニオに恋している(?)関係でありながら、彼のことを信頼もしていないようにも見える、複雑な心境。

『ヴェニスの商人』は喜劇ということになっているが、シャイロックの立場から見れば悲劇に見える作品で、この『さくらどき、銭のよのなか』も喜劇的要素と悲劇的要素の対比、陰影がはっきりとしているように見えた。

それは舞台の照明の用い方にも表われていた。

ユダヤであることの差別、金貸しという職業に対する蔑視、非人格としてしか扱われない人間性における悲劇。

シャイロックの悲劇は多面的で喜劇性も合わせもっているが、共鳴できるような深みは感じられなかったものの、それはそれでよかったような気がする。

最後に、ジェシカが自分の赤子を抱いて、昔話を語ってあやすその物語が象徴的でもあった。

それは、手に触れるものすべてが黄金になることを望んだ王が、王妃まで手で触れて黄金に変えてしまい、近寄ってきた王女を避けてそのままひとり遠くへと去っていく物語。

 

キャストは、小劇団に属するメンバーの寄り合いで構成されているが、それぞれ特徴があって面白いと思った。

これは全く個人的、独善的な印象ではあるが、アントニオを演じたあんな邦祐(フリー)は誰かに似ていると思いつつ見ていたのだが、シェイクスピア劇俳優でもある上杉祥三に似ていると感じた。

シャイロックを演じたカミムラシゲルは、日下武史を小型にして丸みをつけたような感じがした。

バタ臭い乳母のような感じでポーシャの侍女を演じた瀬尾友美(山猫と紅葉)は、どことなく片桐はいりを髣髴させたが、どこがと言われれば答えようがないが、そう思って見るとそうなのだ。

カミムラシゲルと、ポーシャを演じたYOHはともに東京天然デザート所属。

僕にとっては知らない俳優、知らない劇団ばかりであったが、シェイクスピアを通してこのように新しい出会いがあるのもうれしい。

上演時間は休憩なしで1時間50分。

 

(作・演出/都本 千、4月10日(金)夜、西荻窪の‘遊空間がざびぃ’にて観劇)

 

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