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  Tokyo International Players 公演 ‘R3’      No. 2009-010
 

1世紀を超えて英語劇を東京および横浜を拠点にして上演し続けているTIP(東京インターナショナル・プレイヤーズ)とYTG(横浜シアター・グループ)との初めての共同製作による公演。

TIPの創立は1896年で、その姉妹グループであるYTGは4年後の1900年創立、その演劇活動はすべてボランティアによって支えられている。

その二つのグループが初の共同製作として選んだのが、シェイクスピアの『リチャード三世』。

プロデューサーでもあるアレック・ハリスが脚本を担当。

TIPで20年以上活動を続けているベテランから今回が初舞台という新人を含めプロの俳優も出演しての舞台で、昨年の9月から今年の2月まで稽古を積んできて上演に至った。

 

両側を階段状にした観客席が平土間の舞台を挟んでいて、舞台を見下ろす形の臨場感がある。

舞台はボズワースの戦闘場面から始まり、リチャード(マーティン・バーンズ)が叫ぶ。

'A horse, a horse, my kingdom for a horse!'

このボズワースの戦闘場面を現在にして、リチャードの記憶の形で、今なぜ自分がここで戦っているのかが回想される。

「馬をくれ、馬を!代わりに俺の王国をくれてやる!」

という台詞で始まる『リチャード三世』を見るのはこれが初めてではない。

作りは異なるが、東京シェイクスピア・カンパニーが2004年に上演した『そしてリチャードは死んだ』もこの台詞から始まった。

『そしてリチャードは死んだ』はリチャード擁護の立場に立つ作品といえるものであったが、この'R3'もテューダー朝から見たリチャードを再見直しする作品でもある。

その一番の特徴ともいえるのが、リチャードに身体的な欠陥を用いていないということである。

ごく普通の体のリチャードである。

もっとも演じるマーティン・バーンズは極端に背が低く、おまけにずんぐりむっくりタイプであるが、それは肉体的欠陥とは何の関係もない。

リチャードは悪人を演じるが、過去の回想の中の自分である。

現在に立ち返って自分を取り戻したとき、自分が出した処刑の命令を取り消す指示を出すが、時すでに遅しで、ことは終わっていた。

線上の場面のリチャードの前に、赤いフォードに赤いマントで全身赤に包まれた亡霊たちが現れる。

リチャードは、王妃エリザベスと母であるヨーク公爵夫人に、前後挟まれるようにして短剣で刺される。

最後に現れるのは、妻の王妃アン。

彼女は手に短剣を持ってリチャードに近づく。

リチャードは抵抗できないまま立ちすくんでいる。

リチャードの眼前まで来たアンは、そこで短剣を捨てリチャードを抱擁し、接吻する。

実の母親からも見捨てられたリチャードがアンの愛情を受けるのは象徴的である。

このとき口にするリチャードの台詞が、オリジナルの冒頭のセリフである。

'Now is the winter of our discontent

Made glorious summer by this son of York'….

リチャードは赤い色に包まれた亡霊たちに殺され、すべてが終わる。

 

戦闘場面の現在とリチャードの記憶の回想の交錯という、その着想と構想は見るべきものがあるが、惜しむらくは完全に表象化されたとは言い切れないという印象だった。

全体的に冗長な感じがして、それがインパクトを弱めていたような気がする。

裏返せば丁寧過ぎて、鋏の入れ具合が不足しているとでも言えようか。

 

印象に残った出演者の横顔を紹介すると、

リチャードを演じたマーティン・バーンズは本格的なプロとしての俳優活動をしてきた経歴を持ち、現在は日本人の奥さんと愛犬ジャックとともに埼玉県に在住。

地味な演技ながらもとても印象的なマーガレット王妃を演じたのは、東京に在住して35年というドリーン・シモンズ。TIPにデビューしたのが1985年というベテランで、現在は声優としても活躍し、16年間にわたって相撲の衛星放送の解説を続けているといるのでも有名。

魅力的なアン王妃を演じたエレーヌ・サルヴィーニ・フジタは1980年代後半に、東京の日仏スクールに通い、その後パリに移り、高校で演劇の授業を学んだ。そこではシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のジュリエットを演じたのが最も印象的だったという。現在日本に戻って4年目で英語劇の参加はこの'R3'が2作目となる。

 

プロデューサーで脚本担当のアレック・ハリスは、詩人でもある脚本家。

演出担当のアンドリュー・ウールナーはTIPの役員でもあり、YTGの芸術監督でもある。

 

観客は全部で5〜60人程度と少し少ないのが惜しい。

そのうち外国人(英語圏の)が約3分の1ぐらいであった。

 

(4月4日(土)昼公演、東京芸術劇場・小ホール1にて観劇)

 

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