高木登 観劇日記トップページへ
 
  フェスティバル/トーキョー主催 『オセロー』           No. 2009-006

 韓国のイ・ヨンテクが演出し、ク・ナウカの主要メンバーと演劇団コリペの混成チームによる上演。
 作曲と音楽監督は元一(ウォン・イル)。
 舞台の中で重要な役割をしめているのは、鬼太鼓をはじめとした器楽の生演奏。
 日本の夢幻能と韓国のシャーマニズム舞踊「招魂クッ」を融合させた舞台。
 上野の日本庭園でク・ナウカが05年に公演したものとは一味も二味も異なり、それだけでも興味があった。
 「招魂クッ」とはいかなるものか知らないが、韓国の根っこにある「恨(ハン)」を感じる舞台だった。
 半島から来た語り部の巡礼が語る大和言葉の台詞に字幕をつけているが、それならばむしろ韓国語で聞いてみたかった気がする。
 間狂言で、イアーゴーが三助役になって風呂桶のたらいを持ち出してきて、その湯船に足をつけてくつろぐオセローに、デズデモーナとキャシオーの仲があやしいと嫉妬の妄想を煽り立てる演出が奇抜でおもしろかった。
 オセローの背中には、大きな鯉(恋のギャグを感じる)の入れ墨も愛嬌がある。
 ク・ナウカの公演ではまったく覚えていないのだが、今回デズデモーナは死の場面で白菊を手にしている。
 オセローはその白菊をデズデモーナの手から乱暴にもぎ取って茎を折ってしまうことで、その殺害を表象する。
 白菊には、漱石が『オセロー』で霊感を得て作ったといわれる句、
 「白菊に しばしためらう 鋏かな」
が込められている。
 デズデモーナの純白の衣裳、そしてベッドの白いシーツに、その白菊がまぶしく映える。
 招魂=祭祀の関係であろうか、最後にはすべての「恨」を消し去るように全員が激しく踊りまくり、救いの気持ちと明るい開放感を感じた。
 そして、巡礼のことばが胸に響いてくる。
 「沈黙も、休息も、なかりけり...」
 出演は、美加理、阿部一徳、大高浩一、キム・ミスク、イ・スンホン、他。

 

演出/イ ユンテク、企画原案/宮城聡、謡曲台本/平川祐弘、間狂言翻訳/小田島雄志
3月1日(日)14時開演、東京芸術劇場・中ホール、チケット:(S席)4500円、座席:1階B列20番

 

>> 目次へ