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  関東学院大学第57回公演シェイクスピア英語劇『恋の骨折り損』 No. 2008-019

 

楽しめた、

という感想だけで、この劇が成功したと賛美できるのではないかと思う。

それほどこの劇は上演するのに難しい、と思っている。

かの逍遙先生をしてその翻訳において最も困難を極めたと嘆かしめたほど、地口や語呂合わせなどの言葉遊びのオンパレードで、この劇の妙味はそれをいかに味わえるかにかかっている、といっても過言ではないだろう。

60年の歴史をもつこの関東学院大学のシェイクスピア英語劇の公演でも、この『恋の骨折り損』は今回初めての登場であるというのも、そのような背景が手伝っているかも。

いずれにしても果敢な挑戦である。

今回はその台詞についていくためにいつもより多くテープを聞いて臨んだのだが、やはりついていくのに一苦労。

今回目新しい試みとして、劇の冒頭でコスタードとモスがそれぞれ下手と上手に登場して劇の梗概を述べるコーラスの役目をする(彼らがコスタードとモスであるとわかるのはドラマが始まってからであるが)。

しかも日本語で説明をするので、この劇の内容について全く知らない人にも、全体の様子が容易に理解できる。

このコーラスは休憩後の2幕目の冒頭でもなされ、劇の結末についてどのように仕組まれるかの期待感をもたせてくれる。

この試みはとてもフレッシュな感じがして、新鮮味を感じた。

説明役、進行役のコーラス登場はシェイクスピアがよく使う手でもあった。

演出はこれまで長年務めてこられた瀬沼達也氏に替って、今回は彼の演出助手をやってこられた田中弘樹氏が担当。

その丁寧な演出方法はこれまで通りで、小さな仕掛けというか工夫があって、それに気づいたときにこちらまで嬉しくなってくる。

たとえば。

フランスの王女とその侍女たちに恋に落ちたナヴァール王国の王と貴族たちがつづった恋の詩の手紙の色。

それは彼らの衣裳の襟の縁取りの色と合わせられていて、それに符合するようになっているのが心憎い。

演技の点でいえば、奇妙なスペイン人アーマードを演じたヤギ・フミヤ君が絶妙な演技で楽しませてくれる。

その派手なメイクのせいで素顔がわからないので気がつかなかったが、彼は昨年の『から騒ぎ』では悪役のドン・ジョンを演じていたのがあとで分かった。

アーマードの小姓役モスを演じるムラカミ・ハルカさんもピチピチ弾けるような演技で、アーマードとの対の役にぴったり。

彼女は『から騒ぎ』では、ヒアローの侍女アーシュラ、バルサザー、楽士を演じていた。

脇役の面白さでは昨年二枚目役のクローデイオを演じたヨシダ・ノボル君が、今回趣ががらりと変わって苦虫をつぶしたようなホロファニーズをうまく演じる。

今回の座長を務めたビローン役のミツイ・ジュウンペイ君は昨年はドン・ペドロ。

このように出演者の半数が昨年に引き続いて今年も登場しており、昨年のプログラムと比較しながら出演者のことを思い出すのも楽しみの一つになってきた。

全体の感想としては、まず舞台装置。

簡素ながらもイスラミックにしてスペイン風な趣を感じさせるもので、そのシンメトリカルな構成が、この物語の登場人物であるフランスの王女たちとナヴァール国の貴族たちのシンメトリカルな対比を想起させ、シンボリックな感じを伝える。

登場人物のセリフ全般については、多少聞き取りづらい発音・発声もあったが、パワフルな若々しいところがいい。

とくにロザラインを演じたミトミ・ユリエさんは、台詞とその所作が絶妙で、ビローンを圧倒しているところがよく出ていたと思う。

さて、この劇の結末であるが。

もともとこの劇はどこか中途半端な感じがしてならないところがあって、その結末は周知のとおり、フランス王の突然の死の知らせでもって、4人の貴族たちは1年間恋の成就がお預けとなり、その間謹慎生活をおくることになって、再び劇の始まりに戻っていくような円環的な構成となっている。

で、この劇を見た限り、個人的な印象では、なんとなくハッピーエンド的なムードを感じさせる終わり方であったが、学生諸君はどう見たのであろうか、興味のあるところである。

終わりはジグダンスならぬ全員での歌の合唱が和やかで、いつもながら舞台と観客席の一体感を味あわせてくれ、晴れ晴れとした気分が余韻として残る。

 

(12月5日(金)夜、神奈川県民共済みらいホールにて観劇)

 

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