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  劇団AUN第15回公演『リチャード三世』         No. 2008-010

 舞台中央の腰掛椅子に座った状態で、グロースター公リチャード(吉田鋼太郎)が、抑制された声で、自己の内面へと下降していくかのように、「われらをおおっていた不安の冬」のモノローグを静かに語り始める。
 軍鼓の響きが平和の宴に興じられる台詞の場面では、それまでただの黒い背景でしかなかったものが紗幕となって、貴族たちが饗宴に興じている姿を透かして見せる。
 舞台中央奥の上方には、大輪の白バラ。
 グロースターのモノローグの声は、次第に抑制から解き放たれ、昂揚し、激昂していく。
 リッチモンド(長谷川祐之)に殺されたリチャードは、ホリゾントに背をもたれ掛けさせた状態で、リッチモンドの軍隊が去って誰もいなくなった後も、しばらくそのまま空白の沈黙が続き、このままでは収まりがつかない終わり方だなと思っていると…
 リチャードの頭上の白バラから、赤い血が静かにほとばしり始める。鮮やかなイメージ!!
 この舞台では武器はすべて金属バットに置き換えられていて、暗殺の場面も、処刑の場面も、戦闘の場面も、この金属バットが用いられ、暴力的なイメージを強く感じさせるのだった。
 リッチモンドがリチャードを殺す場面は、まるでホームレスを襲うかのようであり、自分の暴力行為に陶酔して抑制が効かなくなった状態で、金属バットで執拗に止めの一撃を繰り返す。そのあまりの執拗さは異常としか言いようのないもので、ドラマ全体の品格を損なうような、見ていて気持ちのよいものではなかった。
 暴力的な残虐性については、金属バットを用いて処刑する場面を含めて、全体的に言えることであった。
 幼い王子たちが暗殺される場面、王妃となったアン(坂田周子)がベッドの上でリチャードによって絞殺される場面は、いずれも紗幕の内側で暴力的に行われる。
 衣装は現代の服装で、ヨーク家側は白バラを表象して全員白色で統一されているが、ランカスター家のリッチモンドの側は、当然のことながら赤色の服装となる。ランカスター家側のマーガレット(沢海陽子)も赤い色の衣装で登場する。
 ヘンリー六世の柩とともに登場するアンは、和服の喪服姿であった。そのアンが剣を以てリチャードに迫る場面は剣ではなく金属バットであり、そのためアンがリチャードを殺すのを逡巡する場面は心理的な繊細さに欠ける気がした。
 エドワード四世(関川慎二)のとりなしで王妃エリザベス(千賀由紀子)一族とヘースティングズ卿(谷田歩)、バッキンガム公(中井出健)らの和解の場は、和式の祝宴。病身の王は脇息にもたれかかっている。食膳はそれぞれ懸盤が供せられる。
 リチャードがロンドン市民から国王戴冠の推挙を得るための見せかけの神への祈りの場面は、仏教の僧侶の姿で全体的に和風のモチーフの道具立ての舞台を感じさせた。
 上演時間は、休憩なしの2時間10分。

 

小田島雄志訳、吉田鋼太郎演出
5月24日(土)13時開演、恵比寿・エコー劇場、チケット:5000円、座席:F列17番

 

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