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  (新進芸術家海外留学制度)の成果 『お気に召すまま』     No. 2008-002
 

文化庁の事業である新進芸術家の海外留学制度の成果というと、いかめしく、堅苦しい感じを与えないでもないが、その印象とは逆に非常に楽しい舞台であった。

『お気に召すまま』は日本でそれほど多く上演されているとは思えないが、稀であるともいえない、そこそこ上演されている部類ではないかと思う。

個人的には、これまで見てきたものではあまり当たり外れがなく、むしろ感心する舞台が多かったような気がする。

今回の演出は、平成9年度(95年)に文化庁在外派遣研修員として1年間パリに滞在した劇団青年座に所属する伊藤大で、上演にあたっては彼自身の新訳を用いている。

台本を直接見ているわけではないが、その新訳は斬新で分かりやすく、現在との同時性を感じさせるものだった。

舞台は、三方が客席に囲まれた張り出し舞台で、しかもその舞台の高さは土間から30cmほどしかないので、最前列の座席であっても、首を持ち上げて見上げるような苦労をしないですむ。

その舞台上は、何もない。

舞台奥は額縁を縁取るように、真紅の緞帳が両サイドに巻き上げられている。

アーデンの森に舞台が移ると、それまで舞台奥の仕切りであったグレイのカーテンが上がって、緑の樹木が繁る森が開ける。その意外性と、鮮やかさが印象的。

舞台美術は、平成15年度にオランダで1年間海外研修を受けた伊藤雅子。

僕の座席はB1列の13番で、最前列の、3ブロックあるうちの中央ブロックの一番右端だったので、そのあふれる臨場感を満喫できた。

舞台を楽しいものにしていたのは、出演者の多彩な顔ぶれ。

異なる劇団で活躍している個性的な俳優が集まっているのと、一部女優が男役を演じているのも見ものであった。

女優が演じる男役は、オリバーの歌川雅子(自転車キンクリート)、フレデリック公爵の重田千穂子(劇団テアトルエコー)、羊飼いのコリン役の五味多恵子(劇団青年座)、ジェークイズの山上優(フリー)。

皆それぞれ印象的なのだが、なかでも目立ったのがこのところシェイクスピア劇づいているStudio Life の山崎康一の道化役タッチストーン。緑色の衣装に、頭には赤い三角帽、片方ずつちぐはぐな色の靴下が印象的。

コントユニットD-Style を主宰する吉田ひとみがタッチストーンの恋人役オードリーを演じているのも、顔作りの化粧からして面白く、楽しい雰囲気を醸している。

演劇集団円所属の有川博の前公爵は重厚、文学座の沢田冬樹のオーランドーもかっちりした演技で所属する劇団の特徴が出ている感じ。

制作担当の劇団一跡二跳からは、追放された前公爵に仕える貴族アミアンズを演じる奥村洋二と羊飼いの娘フイービーを演じる関谷美香子の二人。一跡二跳の上演は一度しか見たことがないが、二人の演技はその劇団の性格が出ているように思う。

小劇場で活躍後Studio Life に参加している藤原啓児のル・ボー、同じく小劇場で活躍する宮島健の老僕アダムの演技もいい。劇団扉座の長田典之のシルビアスもその存在だけで面白みが出していた。

ヒロインのロザリンドは劇団青年座の松熊つる松、公爵の娘シーリアは小劇場を中心に活躍するフリーの福寿奈央。福寿奈央の、人の目をそらさせない演技に目を奪われた。セリフのないときでも、彼女の表情から目が離せなかった。

今回伊藤大が紡ぎ出した楽しさは、98年、東京グローブ座(当時)に来日上演したルーシー・ベイリー演出、シェイクスピア・グローブ・シアター・カンパニーの公演で感じた楽しさと通じるものがあった。

(翻訳・演出/伊藤大、1月27日(日)、新国立劇場・小劇場にて観劇)


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