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  関東学院大学・シェイクスピア英語劇 第56回公演 『から騒ぎ』      No. 2007-031
 

関東学院大学のシェイクスピア英語劇を見始めてから今年でもう4年目になる。

年に一度だけの劇であり、また学生による劇ということでキャストはほとんど入れ替わっているだろう・・・と思っていたのだが、見ていてどうも見覚えのある顔が多いような気がして、観劇後家に帰って過去のプログラムを確認してみた。

驚いたことには昨年の『ヴェニスの商人』公演の主力メンバーがそっくり今回も残っているだけではなく、更にはその1年前の『テンペスト』でも同じ顔ぶれがかなりあった。これは嬉しい反面、次年度からがヤバイのではないか(彼らが卒業してしまった後)といらぬ心配をしている。

 

最初に登場してきたメシーナの知事レオナート、Shota Naito君からしてもう見覚えがあった。

一番記憶に残っていたのは、『ヴェニスの商人』でポーシャを演じたSachie Nezuさん。彼女は今回ヒーローの侍女マーガレットの役。彼女は『テンペスト』ではミランダを演じている。強く記憶に残っているのも納得。彼女の演技はキュートな感じで、台詞も演技もかなり自信と余裕を感じさせてくれ、安心感を与えてくれる。

ヒーローを演じるKeiko Hirayamaさんも『テンペスト』ではミランダ(Nezuさんとダブルキャスト)を演じ、『ヴェニスの商人』ではジェシカを演じているけれども、Nezuさんのような強い印象が残っていなくて、むしろ新鮮な感じがした。ヒーローの役に似つかわしい清楚な美しさだと思った。

ベアトリス役のNatsu Yamazakiさんも3年連続で見ているはずだけれど、やはり記憶がない。というより今回の印象の方が強烈で鮮やか。発音と台詞力では今回の中では役柄にふさわしく、抜きん出ている感じがした。

男性の側では、ドン・ジョンを演じたFumiya Yagi君が、中世の聖劇に登場してくるVice(悪徳)のようなメイクで印象的だった。

ドン・ペドロを演じるJunpei Mitusi君が落ち着いた発音でその台詞に貫禄が感じられた。

ベネデイックを演じるYusuke Shinozaki君は、力演ですね。ちょっと力が入りすぎの点が気になるところでした。

 

キャストの感想はこのくらいにして、肝心の舞台に話を移そう。

『から騒ぎ』は、「騙し、騙され」の虚虚実実のドラマであり、人間の可視的判断がいかにあてにならないものかを描いたものである。

シェイクスピアの原文では状況説明があるだけで、実際にはその場面が演じられない、ヒーローの寝室でボラチオをマーガレットに逢引させてヒーローの不倫行為に思い込ませるために、ドン・ジョンがクローデイオとドン・ペドロに立ち見させるのも誤解の可視化の一つであろう(この演出そのものは特別に目新しい手法ではないが)。

このことで演出の瀬沼達也氏は面白い仕掛けをあらかじめ用意する。

ドン・ジョンが兄のドン・ペドロとクローデイオに、ヒーローとの結婚式の前の晩に、彼女の不実を二人に吹き込む。そのとき、ドン・ジョンは手に黒い肩掛けマントを用意している。

ヒーローの不実を信じ込ませて、二人にその肩掛けマントをかける。二人は翌朝、ヒーローとの結婚式の場にもそれを着用したまま参列する。結婚式の場にはふさわしくないだけでなく、むしろ不吉な色である。二人がその黒いか肩掛けを脱ぐのは、ヒーローの潔白を知ったときである。ドン・ジョンによって騙された二人の姿を可視化した見事な仕掛けといえよう。

ふたりは、その肩掛けマントの仕業でドン・ジョンの仕組んだトリックをいとも簡単に信じ込んでしまう。俗に言えば先入観で物事を見てしまっていて、すでに真実が見抜けない状態。

関東学院大学のシェイクスピア英語劇の演出を20年以上にわたって手がけられている瀬沼達也氏の、思いがけないような仕掛けを見出すのも楽しみの一つである。

 

(12月8日(土)昼の部を観劇(神奈川、県民共済みらいホールにて)


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